VIEW21 2003.2  指導変革の軌跡 広島国泰寺高校

 今から4年前、広島国泰寺高校は大きな岐路に立たされていた。
 広島県で長年実施されてきた総合選抜制度が、1998年度入試を最後に廃止されたのである。これまでは、学校の特色や魅力に関係なく、毎年一定層の生徒が入学してきていたが、総選廃止により各校は生徒獲得のための自由競争を余儀なくされることになった。
 そこで同校が直面したのは、入学してくる生徒の質の変化だった。近隣校に比べ、これといった特色づくりを行ってこなかった同校の人気は低迷し、その影響は新入生の学力に如実に反映された。前年までの生徒なら吸収できていた事が、今年の生徒は理解できない。遅刻をする生徒も目立ち始めた。「このままではいけない。国泰寺を変えなければ」と多くの教師が危機感を抱くようになっていた。
 そんな中で進路指導部長の才木裕久先生が他の教師に提案したのは、施設の拡充でも、特色あるカリキュラムの導入でもなかった。「生徒の現状を把握し、授業改善を目指す」という学校教育の原点に戻ることだった。
 「生徒が学校を楽しいと感じるかどうかの一つの決め手は、授業が分かるということですよね。では生徒の実状をつかみ、分かる授業を行うための仕組みづくりとして何ができるだろうか。そこで浮かんできたのが、国泰寺テストだったのです。99年度末に先生方に提起して、00年度からスタートさせました」
 国泰寺テストとは、現在1、2年生を対象に4月と11月に実施されている校内実力診断テストのことだ。4月は国数英の3教科、11月はさらに地歴と理科が加わる。同テストのねらいは、生徒の各単元・分野ごとの学力を教師が確実に把握し、授業改善に生かすことにある。そのため、教科ごとに何度も議論を重ね、約半年間かけて問題を作成し、大問・小問ごとの予想平均点を明示。さらにテスト後には、大問や小問ごとの結果分析、出題上の反省と課題、授業改善への提言を記した「結果分析報告書」を作成することで、生徒の実状に合った授業への改善につなげている。
 英語科の大道伸幸先生は、当時を次のように振り返る。
 「才木先生から国泰寺テストの提案があったときは、わざわざ実力テストをしなくても、定期テストで生徒の学力は十分に測れるのではないかという声が少なからずありました。けれど実際に、1年生4月の問題作成に当たって、中学校3年間の英語の教科書を熟読し、生徒の学力を把握したつもりで作問したにもかかわらず、予想平均点と現実の平均点が大きく食い違ったときはショックでしたね。私たちは自分たちが考えている以上に、生徒の学力を的確に把握できていないと実感しました。だからこそ国泰寺テストの必要性を、皆が自然と認識するようになったのです」
 国泰寺テストを通じて英語科で明らかになったのが、最近の生徒は予想以上に長文読解が苦手な一方、発音や会話問題は非常によくできるということだった。そこで、授業に発音や会話を多く取り入れ、生徒の英語への意欲を維持しつつ、苦手な長文読解力も付けられるように工夫した。国泰寺テストの結果分析が、授業改善へと結び付いている一例だ。
 「でも、このテストのもっと大きな効果は教師の意識改革につながったことではないでしょうか。これまでの定期テスト作成時とは異なり、国泰寺テストでは英語科の教師全員で作問を分担し、生徒の学力に相応した問題になっているかどうかを徹底的に議論しました。それによって、授業や生徒への指導がどうあるべきか、互いに率直に言い合えるようになりました」(大道先生)


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