高・大……大学のキャリア形成の現場から
学生の適性に応じた 総合的なキャリア支援への取り組み
社会のグローバル化や長引く不況を背景とした企業の雇用慣行の変容、個人の意識変化などを受けて、学校現場ではキャリア教育に対する関心が高まっている。多くの大学でも、学生が将来に対する明確なビジョンを持って、自分に合った進路設計ができるよう様々な改革に着手している。今回は、学生のキャリア形成に対する意識を高めるための、大学の取り組みを探ってみた。
適性にふさわしい学部・学科を選択するために ~東京大
「進学振り分け制度」がもたらす点数至上主義という弊害
東京大では、新制大学に移行した1949年以来、「進学振り分け制度」と呼ばれる独自の学内進学制度を採用してきた。新入生は文科・理科各一~三類に入学し、2年間教養学部(前期課程)で教育を受けた後、3年次から専門学部(後期課程)へと進学していく。前期課程の2年間は、同大の掲げる「リベラルアーツ教育」の理念に基づき、学生たちは様々な学問の最先端に接することになる。学生一人ひとりに自分の適性を見極めさせた上で専攻分野を選択させるためだ。
しかし、「進学振り分け制度」については、これまでいくつかの弊害が指摘されてきた。例えば、学部・学科への進学は、各類に与えられた定員に従って、前期課程の成績順で決まるため、学生の間で過剰な点取り競争が行われる傾向が強くなった。そのため、自分の興味とは関係なく点数の取りやすい科目を探して履修したり、ただ点数を上げるためだけに履修科目を過剰に登録したりする学生が後を絶たなくなった。そして、このような点数至上主義の圧力が、学生の学問に対する関心や態度を劣化させているのではないかという危機意識が、学内で高まっていたのである。
様々な弊害を抱えていた「進学振り分け制度」だが、学生がこの制度を有効活用できるよう、89年に進学情報センターが設置された。同センターでは、各学科の志望者数の変遷や、進学振り分け時の最低点の推移など進学に関するデータを提供したり、進路選択のためのシンポジウムを開催したりする他、同センター内に進学相談室を設けて、進学に関する学生の悩みの相談にも応じている。同センター担当教官・里見大作教授によると、相談に来る学生の中には、あまり自分の将来や適性を考えずに進学先を決める者もいるという。
「一見、堅実に進学先を決めている学生でも、その実、周りの学生の人気に左右されてしまっていたり、親や親戚などの期待に応えることを最優先にして本当に自分のやりたいことを諦めてしまっていたりする場合も少なくありません。自分の適性を把握できていないのかも知れませんね」
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