――自律的学習者の育成に向けて――
「学習力」の構築
近年、生徒の「学力低下」を巡って、様々な論争が繰り広げられている。しかし、学習の結果として身に付いた「目に見える学力」の低下以上に、むしろ深刻なのは生徒の学習意欲や学習スキルなど「学習力」(学ぶ力・学びに向かう力)の低下ではないだろうか。
今号では生徒の「学習力」を構築し、受身的ではなく自律的な学習へと導くために、高校現場において求められる指導とはどのようなものかを、教育心理学者である市川伸一東京大教授へのインタビュー、ベネッセ教育総研と公・私立高校による共同研究レポート、英・数・国の先生方の対談などを通して考察したい。
Part 1 Interview 生徒の学習意欲をどう引き出すか
生徒を学びへと向かわせるには、どのような動機づけが有効なのだろうか? 市川伸一東京大教授に、学習意欲の引き出し方と指導法についてお話をうかがった。
「学び」から遠ざかっている現代の生徒たち
Q
市川先生は、教育心理学者として、これまで教育課程審議会や中央教育審議会などの委員も務めていらっしゃいますが、現在教育現場で危惧されている「生徒の学力低下」についてどのようにお考えですか?
A
生徒の学力低下は、主に理数教科のみの問題として語られることが多いですね。しかし、実際には理数教科だけではなく、文章を書く、読んで理解するなどの国語力をはじめ、学力全般に渡って低下が見られると考えています。
学力には大きく分けて「学んだ力(学んで身に付いた力)」と「学ぶ力」があると思います。知識や技能、さらには文章読解力や討論力、批判的思考力などは「学んだ力」です。一方、「学ぶ力」とは学習意欲や知的好奇心、学習計画力、学習方法、集中力、持続力、コミュニケーション能力などです。私は「学力低下」というのは実はこの「学ぶ力」の低下のほうがより深刻な問題で、中でも学習意欲や自己学習力を伸ばせていないところに問題があるのではないかと考えています。
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