Q
生徒が「学び」そのものから遠ざかっているということですか?
A
そうです。その要因の一つとしては、生徒を取り巻く社会的・文化的環境の変化が挙げられます。今までは良い成績を修め、良い大学に入ることが個人の生活を豊かにすることに直結していました。世の中の価値観が学習に肯定的であったので、学生も能動的に学び、学ぶことの楽しさや学習スキルを身に付けやすかった。しかし、経済的に豊かになり、社会の価値観が多様化している現在では、生徒を学びに向かわせることが非常に難しくなってきています。受験で勉強をしなければいけない状況に追い込まれても「やらされているという感覚」が強く、どうしても形骸的、表層的な学びになりがちです。こういった世の中の変化に対応するためには、生徒を自発的に学びに向かわせられるような学力観・学習観を再構築していく必要があるでしょう。
また、旧来の知識偏重型学習の弊害も指摘する必要があると思います。ただし、ここで明確にしておきたいのは、決して「知識教育自体に問題があるわけではない」ということです。認知心理学のモデルを基に学力と知識を考えてみましょう(図1参照)。人間はコンピュータと同じように何らかの情報を処理するシステムを持っていると言えます。しかし、人間はコンピュータと違い、入力情報を自分自身の知識を用いて構造化したり意味付けをしてから取り込みます。本を読んで理解する、人に意見を伝えるといった日常の知的生活の背景には常に知識があります。つまり、人間は知識を内蔵しているからこそ、思考したり表現したりすることができるのであり、その一連の活動は、決して切り離されたものではないのです。しかし、今までの学校教育では、知識を蓄えることに重きが置かれるあまり、知識を使ってどう思考するか、また、表現するかは二の次だったのではないでしょうか。これでは、生徒は蓄えた知識を使う機会がないため、知識を学ぶこと自体の必要性を感じにくくなってしまいます。
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