Q
高校の先生方も生徒の「やる気」を引き出す点で、本当にご苦労をされているようです。
A
そうですね。授業や教材を工夫して楽しいものにしても、世の中には他にも楽しいものが溢れていますから、なかなか学校での学習に興味が向いてこない。では、一体生徒はどんなときに学習に対する動機を感じ得るのか――。私は、この点を解き明かすことができれば生徒を学びに向かわせるきっかけがつかめるのではないかと考え、大学に入ったばかりの学生に、「あなたは高校まで、なぜ勉強したのでしょう」「人は一般になぜ勉強しているんだと思いますか」という問いに答えてもらいました。その結果、出てきた答えはほぼ6つの動機に整理することができました。それらの動機を構造化したのが「学習動機の2要因モデル」（図2）です。
横軸には、「学習をどれくらい功利的なもの（損か得か）と捉えているか」という「学習の功利性」を、縦軸には「学習内容の重要性」を置きました。この二つの次元を組み合わせた空間の中に、6つの学習動機を収めたのです。
生徒の多様な学習動機を把握し、指導に役立てる
Q6つの学習動機について、説明していただけますか。
A
図2を見ながら説明したいと思います。まず上段左の充実志向は学習すること自体が楽しく、学習をしていると充実感を感じるというものです。つまり、内容重視で、「この学習をすると、どんなメリットがあるか」などの損得は考えません。また、訓練志向は、自分自身の知力を鍛えるために勉強しているということです。実用志向は、自分の将来の仕事や生活に生かせるから勉強するという考え方です。この場合は、内容と功利性の両方が重視されます。
次は下段ですが、まず関係志向は「友達が勉強しているから」「先生が好きだから」というように、他者が動機づけになっています。自尊志向は「ライバルに勝ちたい」「テストで良い点を取ると優越感を持てる」といったプライドや競争心が動機となっています。最後の報酬志向は、物質的な報酬を意識しています。「テストで良い点を取るとお小遣いを上げてもらえる」「レベルの高い大学に合格するとバイクを買ってもらえる」という理由で勉強するんですね。
このように、生徒が学習に向かう際の動機は様々です。もちろん同じ志向を持っていても、生徒によって強弱はあるでしょうし、いくつかの動機を同時に持ち合わせていることもあるでしょう。しかし、生徒の動機の志向性を理解することで、指導の切り口にはなると思います。
例えば、実用志向が強い生徒にとっては、学んだ内容が何に役立つのかを知ることが学習の動機づけになるので、将来自分が就きたい職業に今の勉強がどう役立つかを教えることが大切です。そのことを教えずにひたすら「学問の面白さ」を語ったとしても、生徒にとってのインセンティブとはなり得ないことがあるんですね。
また、訓練志向の強い生徒であれば、問題を解いたり、知識を蓄えていく過程で身に付いた思考法や、学習法が他の場面でも役立つことをしっかり認識させてあげることが必要です。