VIEW21 2003.2 特集 「学習力」の構築

Q
この6つの動機は、「優れた動機」と「そうでない動機」のように、優劣はつくものですか。

A
優劣がつくものではないのですが、学習動機と学習方法との間には強い相関関係があることが分かっています。学習動機の調査を学生に行う際、学習方法についても質問をしてみました。すると、内容関与的動機、つまり、図2の上段に属する動機が強い学生は、「自分の学習法を工夫してみる」「丸暗記ではなく、理解することが大切だと考えている」「失敗を恐れず失敗から積極的に学ぶ」など、学習の方法についてより工夫したり、熟考したりしていることが分かってきたのです。(図3左側参照)。それに対して、内容分離的動機、つまり図2の下段の動機と学習方法との相関はほとんど見られませんでした。例えば、「報酬志向」が強くても必ずしも、「ただ暗記するのではなく、理解して覚えるようにしている」などの学習方法の工夫に結び付かないのです。

図

Q
生徒には、内容分離的な動機を持たせるよりも、内容関与的な動機を持たせた方がよいということですね。

A
内容関与的な動機を持つ生徒は、学習の内容を重視し、その内容を身に付けたいと考えているので自然と学習の質も深まってきます。そのため、生徒には最終的に「充実志向」「訓練志向」「実用志向」といった内容関与的な動機を持たせることが理想だと思います。ただ、「関係志向」「自尊志向」「報酬志向」などの内容分離的動機が、好ましくないというわけではありません。これらの動機は、学習方法の特性とほぼ無相関であり、逆効果を及ぼすわけではないからです。生徒の資質によっては、これらの動機を持たせることから始める方が効果的な場合もあります。例えば、グループ学習を行い、クラスメイトと楽しい雰囲気をつくり上げる中で学習に向かわせていくといった「関係志向的動機づけ」は、幼い生徒にはインセンティブとなり得ます。
 ただ、これらの動機を強めていくにつれて学習方法の質も上がるかというと、必ずしもそうはならないので注意が必要です。

Q
動機づけの弱い生徒には、「関係志向」「自尊志向」「報酬志向」などから始めて、徐々に「充実志向」「訓練志向」「実用志向」のような内容関与的動機を持てるように指導することも一つの方法ですね。

A
そうです。教師が、生徒の置かれている状況に応じて、学習方法のアドバイスや指導法を使い分けることも大切です。しかし、高校生であれば生徒自身が自分の中にある「多様な動機」の存在をしっかりと意識して、自分でモチベーションをコントロールできるようになってほしいですね。
 例えば、高校生は小・中学生と違い、進路選択が目前に迫っているので、「実用志向」が動機づけになりやすいですね。その反面、受験に関係のない教科に対しては、意欲がそがれがちです。
 しかし、高校時代に学んだ内容が将来のいつ、どこで役に立つかは誰にも分からないことです。心理学の研究でも数学や文学が後から役立つことは多いのです。「将来の自分の可能性を広げるために学ぶ」という発想を生徒は持ちにくいので、先生から気付かせてあげてほしいですね。また、「役に立つか」は別にしても、学ぶこと自体が人生の糧になるし、何より楽しいということを人生の先輩として示せるようでありたい、とは私も思うところです。
 人間の学習意欲は、様々な動機によって支えられています。多重の動機に支えられていると、ある動機が弱まったときでも他の動機によって、意欲を持続することができる。こうした「動機づけ」のメカニズムをきちんと理解し、自律的に意欲を呼び起こせる力を高校時代に身に付けられれば、生涯に渡って学習を継続させることができるのではないでしょうか。


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