ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
新課程のスタート状況と今後の展望
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【4】 新課程実践の課題と展望
SI確立→シラバス作成→授業改善
 今回の調査から、新教育課程の編成に当たって、多くの高校が従来の教育活動の在り方を根本から問い直し、様々な難しい課題に悩みながらも教育計画の立案に取り組んでいることがうかがわれた。
 新学習指導要領の運用に基づく学校教育で成果を上げていくために、自校の「SI」を確立し、その目標実現のための具体的な実行計画=「シラバス」を作成し、そして「授業改善」に結実させていくという方向が多くの高校での共通した路線となってきている。すなわち、学校の教育力をいかに組織的に構築していくかということが、多くの高校で切実な課題として認識されてきたと言える。
 しかし、「SI→シラバス作成→授業改善」という流れを実効性あるものとしていくためには、多くの高校で既に試みられているように、生徒、とりわけ年々変化していくことが予想されている新入生の、多様な側面からの実態把握とそれに基づく指導設計、その指導の成果と課題の検証→改善策の立案と実行という、いわゆるPDCAサイクルを組み込んだ取り組みが求められる。
 SIについても今後の高校を巡る環境変化に応じて、再度の見直しや深化に取り組む高校も生まれてくるだろう。
 シラバスの作成は、新課程における3か年の学習指導の具体的なストーリーをつくる作業とも言える。しかしながら、今回の学習指導要領に基づく指導計画の立案は、それ自体が従来にない難しさを伴うという声が学校現場から聞こえており、新課程の大学入試の全貌も不透明である現状では、シラバスを作成済みの学校においても多分に不安を抱えているところが多いと思われる。
 どのようなシラバスを作成し、どのように活用すれば実際の成果につながっていくかは、今後、多くの学校で試行錯誤が続けられていくことになるだろう。しかし、この模索のプロセスを通して、学校内に授業と指導改善のノウハウが確実に積み上がっていくのではないだろうか。


「総合学習」の取り組みを学校改革の契機に
 「総合学習」では、「総合学習」を通して生徒にどんな力・資質の育成を目指すのかという学校としての目的を明確にすることが求められ、それゆえSIと密接にかかわってくるものである。実際、「総合学習」の検討を契機にSIを新たに構築し、「総合学習」を核にして教育活動全体の再編を図っている高校は少なくない。「総合学習」は、教科や学年の枠を越えた活動を促し、人的・組織的な面においても従来の学校の在り方を変える契機を提供している。また、教師と生徒の新たなコミュニケーションを生む機会ともなっていることも見逃せない。資料14に見るように、約5割の高校が「総合学習」で「生徒と教師間、教師同士のコミュニケーションが深まってきた」と回答している。
 しかし、「総合学習」が学力向上に効果があるのかどうか確信が持てず、なかなか足が踏み出せない高校が少なくないことも事実だろう。「総合学習」は、元々21世紀を切り拓いていく人材にふさわしい資質=問題解決力などの「生きる力」の育成が主眼とされているものである。しかし、多くの高校にとって教科学力向上とのかかわりが重大関心事とならざるを得ないのも現実である。
 このことは、「新課程の検証」の重要テーマの一つと考えたい。教育の成果を近視眼的に追求することは戒めなければならないが、「総合学習」の達成目標に対して、どのような成果を上げたのかを検証していくことは必要である。この一環として教科学力向上への寄与についても、定量的に捉えていくことが保護者や地域への説明責任を果たすためにも求められるのではないだろうか。
 
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