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教養教育を活性化させるために 今、大学がなすべきことは何か
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教養教育活性化の方向性を探る
1.評価方法・規準の徹底や厳正化
 教養教育の必修化の他に、学生を教養教育に向かわせるために模索されている方法が、評価方法・規準の徹底や厳正化といった制度面からの規制である。学生に明確な到達目標を示すことで、学習の動機付けを与えようというねらいだ。極端な例では、卒業認定試験によって卒業の可否を決めるといった方法もある。
 海外では、GPA(Grade Point Average)制度を使って評価基準を厳正化していく方法も見られる。これは、学期ごとの成績を5段階で評価し、もし成績が「平均点2・0未満」であれば強制的に退学させることもできるという評価システムである。アメリカではこの制度で、約半数の学生が退学している。
 「現在、世界的にクォリティアシュアランス(質的保証)の考え方が重視されており、大学卒業時に厳格な評価尺度や到達目標を立てて、そこに到達しているかどうかで大学の教育やカリキュラムの質を評価しようという流れにあります。今後、我が国の教育水準も世界基準に基づいて測られる方向に動いていくでしょう」(有本教授)
 このように、現在、到達目標・評価規準の「制度」構築により、大学教育の質を向上させようという方向にあるが、この延長線上に教養教育の活性化策を見いだすことができるかも知れない。

2.「学生」「教員」「カリキュラム」の関係改善
 こうした諸制度の整備と共に、もう一つ大学に求められるのは、教養教育を支える「学生」「教員」「カリキュラム」の三者間の有機的な協調関係をつくっていくことだ。
 協調の核になるのは、カリキュラムの整備だ。そこから、教員にはカリキュラムの構造・意義に対する理解が、学生にはカリキュラムに沿った学力の習得が求められる。逆に、カリキュラムに改善する点がないか、教員・学生は常に目を光らせる必要もある。これにより、カリキュラムの効果を最大限に生かす、あるいはより完成度の高いカリキュラムを構築することが可能になる。
 教員と学生の間にも相互補完が必要だ。教員は学生の達成度や要求を把握し、学生は教員がシラバス通りに授業を行っているか、きちんと点数を付けているかをチェックする。三者間の協調関係により、教育効果を上げていくことが、教養教育の発展を内部から支える力になるのである。
 最後に、教養教育活性化の観点から、望ましい高校教育の在り方を有本教授に語ってもらった。
 「今後、高大7か年教育の観点からも、教養教育の連続性を視野に入れた教育が益々重要になってくるでしょう。高校では基礎学力と学習に対する意欲を醸成することが重要です。しかし、大学入試を考えると、どうしても試験対応型の詰め込み教育に偏る傾向が見受けられます。懸念されるのは、入試対策に特化した学習では、得られた知識を有機的に関連付けて思考する力が育ちにくいという点です。高校で求められるのは、物事を体系的に捉えて考える力を養い、かつそれを自分の「生き方」「在り方」の探究にまで深化させる学習です。従来から行われている進路学習や『総合的な学習の時間』による課題研究などを通して、大学での学びに欠かせない意欲・好奇心・学習力・創造性などの能力を育てることが、教養教育の活性化につながるのだと思います」
 
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