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就職に有利な知識・スキルを求め専門教育に傾倒する学生たち
同様に、学生の側にも教養教育を軽視する傾向がある。多くの学生の関心事は大学卒業後の就職にあり、社会に出てすぐに役立つ知識・技能を身に付けたい、就職に有利な資格を取りたいといった意識が極めて高い。その結果として、学生は就職に直結する知識やスキルを獲得しにくい教養教育よりも、専門教育を重視するようになる。
また現在、世界的にITを利用した即戦力養成型の教育システムが急速に普及しているが、これらの教育システムに考える力や判断する力を養うメニューが取り入れられていることは少ないという。専門教育志向の下、これらの即戦力型の教育システムに傾倒する学生が今以上に増えれば、学生の教養教育離れは一層加速する。
専門性ばかりを追求することに対して、有本教授は次のように警鐘を鳴らす。
「これまでのように分業を中心とした社会においては、専門性を高めることにも意味がありました。分業が進めば、それぞれの分野で高い専門性が要求されるからです。しかし、これからの『知識社会』で重視されるのは考える力、判断する力です。それに、すぐに役立つ知識は、陳腐化するのも早いということを肝に銘じておくべきです」
教養教育の必修化で「知識の偏食」を防ぐ
~広島大の改革事例
前述したとおり、02年の中教審答申は、ここに来て改めて教養教育の在り方を見直し、教養の「再構築」を促した。これを受けて、大学では学部教育における教養教育の比重を高め、大学院において専門教育と研究者の養成に力点を置くという役割分担が制度として規定されつつある。しかし、学生・教員共に専門教育を志向する風潮の下で、両者のコンセンサスを得ることは難しい。
そこで、大学現場では強制的にでも学生を教養教育へ向かわせる方策を模索している。学生が求める科目ばかりを履修させるのは「知識の偏食」に他ならない。それをなくし、バランス良く幅広い知識を身に付けさせるためには「嫌でも食べてもらわなくてはならない」(有本教授)からだ。
そのための方策の一つとして、教養教育をコアカリキュラムに据えることで、学生が履修せざるを得ないような状況をつくる場合がある。
広島大では97年に大幅な教育改革を実施し「教養ゼミ」「パッケージ別科目」などの科目を設置し、教養教育のテコ入れを図った。
「教養ゼミ」は高大接続のための導入科目で、オリエンテーションの役割を果たすと共に、大学教育への動機付けを与えるために設けられている。学生が自由にテーマを設定し、10人程度の少人数クラスごとに、取材やディスカッションなどを通して調査・研究を進める。ゼミ専用のガイドブックも用意されており、資料の探し方、読み方、リポートの作成方法、ディスカッションの仕方など、大学での多様な「学びの方法」を身に付けられるようになっている。
「教養ゼミには、自分で考え判断し、広く社会問題をテーマとして扱うといった、教養教育の要素も盛り込まれています。テーマ設定は学生がある程度自由にできますし、また、研究の成果を活字として発表するというところにやりがいを感じる学生も多く、人気は高いですね」(有本教授)
また「パッケージ別科目」は、「知の根源」「人間の自画像」など、5つの系統から1つを選択。さらに各系統ごとに、「人間・価値の視角」「社会・世界の視角」「自然の視角」という3つの科目群が設けられており、それぞれの科目群から2科目以上を履修する。多角的なものの見方を身に付けると共に、系統ごとに一つの理念に基づいてまとめられた科目を履修することで、分野間のつながりも理解できる仕組みになっている。学生が専門教育に近い科目しか履修しないのを防ぐ効果もある。
学ぶことの楽しさを知ることが、学生に教養の重要性を気付かせる第一歩になる。一連の取り組みには、こうした大学側の切実な思いが込められていると言える。
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