ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
「公立校」としてのアイデンティティに基づく中高一貫制の模索
   2/4 前へ次へ


 公立中高一貫校の整備に向け、関連法案の調整が一段落したのは1999年のことであった。以来、公立中高一貫校は徐々にその数を増やし、現在全国で118校になる。
 そんな中、次第に顕著になってきたのは、多くの進学校が、中高一貫制の導入を検討し始めたことである(資料1)。そのさきがけとして、02年度に静岡県立浜松西高校、岡山県立岡山操山高校が併設型の中高一貫制の導入に相次いで踏み切ったことは記憶に新しいが、両校共これを機に、6年間を見通した進学指導の充実や、少人数クラスを実現しようとしている(本誌02年6月号「特集」を参照)。後続校の多くも同様の施策を踏襲するであろうことは想像に難くない。
 だが、ある意味「私立並み」の体制が可能になったことで、公立中高一貫校のアイデンティティが問い直されているのも事実だ。実際、高校現場では「進学指導にあまりにも特化しては私立と変わらないのではないか」「既存の公立校との関係はどうなるのか」といった疑問を、かなりの教師が感じているようだ。
 そこで今号では、03年度から併設型の中高一貫校となった致遠館中学校・高校の事例から、公立中高一貫校が、自校の役割をどのように捉え、どのような手法でその役割を実現しようとしているのかレポートする。
資料1
文部科学省ホームページ「中高一貫校の設置・検討状況」等より。なお、東京都の各高校は、併設型か中等教育学校型のいずれか未定。


全人教育の充実を目指した中高一貫制の導入
 佐賀県有数の進学校として知られる致遠館高校は、98年度に県教委から研究開発校に指定されたことを機に、03年度から中高一貫制の導入に踏み切った。だが、同校の森永和雄校長は、「中高一貫制の導入は、あくまでも本校独自の事情に基づく結論」と言い切る。
 「本校は、85年の開校準備当初から、中高一貫制の導入を目指して様々な議論を積み重ねてきました。特に98年からは『生き生きハイスクール推進委員会』の下、議論を一層具体化させましたが、議論の中で常に念頭に置いていたのは、本校の教育目標である『国際社会で活躍できるリーダーの育成』をどのように図っていくか、ということでした。この目標を達成していくためには、中高一貫制を学力育成のためだけに使うのでは意味がありません。学力と共に、『生きる力』として、物事を根本から考える力や、自分の考えを正しく相手に伝える力を育成することこそ大切だと考えました。本校は、『全人教育を一層推進する方法』として中高一貫制を捉えたのです」
 では、同校は中高一貫制を、どのようにその目的の実現に生かそうとしているのだろうか。以下でそのポイントを整理してみたい。
 
このページの先頭へもどる
   2/4 前へ次へ
 
このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.