ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
学校のノウハウの共有と伝承を図る
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求められる手法は?
目的を明確にし、学校にある
ノウハウの形式知化を進める
 学校のノウハウを共有化し、着実に伝承していくために、学校現場ではどのような取り組みが求められるのだろうか。学校の活動を「ノウハウ共有」の視点から見直す手法について、引き続き鞁嶋先生にお話をうかがった。
STEP1
ノウハウ共有の目的を明確にする
 学校のノウハウは、多くの場合、教師個人の「職人芸」として受け継がれていたり、その存在自体が認識されていない「暗黙知」の状態にある。したがって、ノウハウを共有・伝承する仕組みをつくる上での第一歩は、対象とすべきノウハウを特定し、それを共有する目的を明確にすることだ。ところが、この重要なプロセスをおろそかにしている学校は少なくない。学校の実情に応じて「今まで以上の進学実績を上げるため」でも「生徒の授業への食いつきをよくするため」でも構わない。まずは、「何のためにノウハウ共有を行うのか」を明確にすることが肝要である。
 と言うのも、取り組みがスタートすれば明らかになることだが、組織的に学校のノウハウを構築するには、どうしても個人のノウハウを持ち寄らなければならない部分が出てくる。そのときに「何を目的としたノウハウ共有なのか」が明確になっていないと、教師の足並みを揃えることが難しい。ノウハウ共有を一つの取り組みとして進める以上は、それに見合った目的と意義付けが必要なのである。


STEP2
ノウハウを共有化する「場」を設定する
 さて、ノウハウ共有のための目的が確立したならば、今度は実際にそれを実施していく「場」をつくらなければならない。ここではその具体例として、私がある高校で実践した「進路研修」を取り上げたい。
 私がかつて勤務したA高校では、教師間の進路指導のスタンスが必ずしも揃っていなかった。B大学を目指す同じ生徒を見ても、ある教師はGOサインを出し、別の教師は「絶対に無理」というような状態にあったのだ。「進路研修」はそんな現状を打開し、A高校としての進路指導ノウハウを確立するための取り組みとしてスタートしたのである。
 同研修は、毎年4月末に全教師が参加して実施された。毎回、前年度に3年生の担任を務めた指導力の高い教師を講師に迎え、具体的な生徒の名前を挙げながら、3年間に渡ってどのような指導を行い、どのような結果を残したのかを発表してもらった。その結果、「A高校ではどの時期にどんな指導が求められるのか」「同じ意図を持った取り組みでもベテランはどのように実施しているのか」といったポイントを若い教師や新しく着任する教師が理解することができた。そして数年後にはA高校としての進路指導ノウハウを各教師が自覚できるところまで共有化が進んだのである。
 このケースでは、新たに「進路研修」という場の設定がなされたが、必ずしも、すべての学校において同様の取り組みが必要とは限らない。むしろ、普段は見過ごされがちな日々の活動の中に、随時「ノウハウ共有」の仕組みを追加していく方が現実的であろう。例えば、進路指導ノウハウの共有化を目指すなら進路検討会の在り方を、教科指導ノウハウの共有化を目指すならば、教科会や模試判定会議などの位置付けを見直すのである。多くの場合、これらの取り組みは「対生徒向け」と認識されているが、ノウハウ共有の視点から、これらを「対教師向け」の取り組みとして再評価することは十分可能であろう。
 
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