ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
学校のノウハウの共有と伝承を図る
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STEP3
ノウハウを形式知として明文化する
 教師同士が互いのノウハウを交換できる場が整えば、「組織内共有」のレベルでは、一定の進歩が見られたと言ってもいいだろう。しかし、このレベルで可能になったのはあくまでも「経験情報を人伝えに共有すること」であり、組織的な「伝承」が保証されたわけではない。そこでどうしても必要になってくるのが「ノウハウを明文化する」という作業である。
 例えば、先に挙げたA高校では、「進路研修」の実施と並行して、確立した進路指導ノウハウを文書化していく作業も行われた。具体的には、生徒の模試成績と進学実績を対照させ、校内偏差値をベースとした学校独自の判定基準を作成したのである。
 作成に当たってはベテラン教師の過去の指導実績が大いに生かされた。例えば「全国偏差値では低くとも、校内順位がこのくらいの生徒であればC大学を受験しても大丈夫」とか、「この時点ではD大学のレベルに届いていない生徒でも、このような指導をすれば十分挽回が可能だ」といった、生きたノウハウが盛り込まれた。
 こうしてできた独自の判定基準は「判定会議」の場で活用された。この会議は1、2学年では9月と2月の年2回、3学年では6、10、12、1月の年4回行われ、学年の教師全員で生徒一人ひとりの志望進路と現状を話し合い、成果と責任が共有された。また、話し合いの成果は随時判定基準に反映され、教師の生きた言葉での修正が重ねられた。その結果、A高校ではたとえ自分の担当教科以外でも、担任が生徒に学習法のアドバイスをすることが可能になり、個人面談や三者面談の質が大いに向上した。このことは当然、保護者や生徒からの信頼感の向上にもつながり、結果として、教師一人ひとりに生徒育成に対するさらなる責任と積極性を生み出す原動力となったのである。
 こうした作業は、進路指導のノウハウに限らず、教科指導や学級経営についても可能である。前者なら、シラバスの精緻化などが考えられるし、後者なら学級経営計画の実効性を高めていくことなどが考えられるだろう。「教育活動のノウハウを文書化するのは難しい」とよく言われるが、必ずしもそうではないことを改めて確認しておきたい。


STEP4
取り組みを学校行事として位置付ける
 このようなステップを踏むことで、かなりの程度、学校のノウハウを伝承することが可能になるはずだ。そして、一度このようなシステムが完成し、教師による指導のぶれがなくなれば、必ずや成果が表れる。成果が上がれば校内のベクトル合わせもさらに進むので、2年目以降の活動はより円滑に進むであろう。
 だからこそ、1年目の取り組みをどのように軌道に乗せるかが極めて重要な意義を持っている。特に、公開に消極的な教師のノウハウを、いかにオープンにしていくかは重要な課題と言える。
 この課題に対処するための方法の一つは、ノウハウ伝承に向けた取り組みを、最初から「学校行事」として位置付けてしまうことだ。通常、学校のノウハウは分掌単位で伝承されているものだが、それを学校全体で共有・伝承する以上は、全校体制の取り組みにしなければなるまい。実際、先のA高校の「進路研修」や「判定会議」では、「教師全員」の参加が前提であった。だからこそ、生徒一人ひとりの育成に対し、すべての教師が責任感を持つことができ、ノウハウを共有化することの意義が伝わったのである。さらには、「生徒一人ひとりの合否に、全教師が共に喜び、悲しむ」というような学校の一体感も自然に醸成された。
 学校のノウハウを確立するためには、まず、個々の教師の中にとどまりがちなノウハウをオープンにする仕組みをつくることが求められる。それが教師はもとより、学校を変革させ続けていく軸になるのではないだろうか。
 
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