ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
生活態度・授業態度に危機を感じる中学校
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中学校の現場から(2) ~生活指導~
地域の連携により子どもの協調性を育む
他者との触れ合いの機会が少ない子どもたち
 近年の社会環境の変化は、中学生の生活指導をこれまで以上に難しいものにしている。特に東京都などの都市部において、その傾向は顕著だ。
 例えば、インターネットや携帯電話の影響。基本的に個人単位で扱うものなので、周囲と隔絶する環境が生まれやすく、中学生を人と人との直接的な触れ合いから遠ざけている可能性がある。また、家庭環境の変化も大きい。特に、都市部の大きなマンションなどでは隣近所の付き合いが希薄で、隣の住人の顔を知らないことも珍しくない。
 実際、中学生のコミュニケーション能力は低下しており、中学校でも生活指導に大きな影響が出ているという。都内の公立中学校に勤めるK先生は、自校での経験を次のように述べる。
 「今の中学生は元気もあり、物怖じせずはっきりと意見を述べられる子が多いのですが、その反面、皆と協力して行事を成功させようという生徒が少ない。例えば、合唱コンクールの準備段階で、好きではない歌が課題曲に決まった途端に、やる気をなくしてしまうんですね。そうなると、早朝練習や放課後練習にも来なくなってしまいます」


地域全体の教育力を上げて生活指導に取り組む
 集団の中で協調できる子どもを育てるためには、どのようにすればよいのだろうか。K先生は「家庭も含めた地域全体で生活指導をしていくことが大切」だと指摘する。
 現在多くの自治体が、地域における「教育ネットワーク」を強化し、学校と相乗的に教育効果を上げようとしている。子どもたちの自然体験の場を積極的につくり出していく、地域活動やボランティアへの生徒の参加を促す、また家庭教育に関する専門家と地域の教育機関が連携して家庭における躾の相談に答えるなど、様々な取り組みを通して地域の教育力を上げようとしている。
 同じく都内の公立中学校に勤務するS先生は次のように述べる。
 「学校によって、どの生徒もしっかりとした挨拶をする学校もあれば、生徒のほとんどが挨拶をしない学校もあります。指導をするとしないとでは、こんなにも差が出るのかと驚くと共に、改めて教師の影響力の大きさを感じます。我々教師も学校全体で生活指導に力を入れていくように気運を盛り上げていかなくてはいけません。当然、家庭や小学校も、それぞれが教育力を高めていく必要があります。その上で、お互いが連携を強めていくことができれば、もっと効果的な生活指導が可能になるのだと思います」

 学校現場における様々な問題点を解決するにはまず、その課題をしっかりと把握することが大切だ。これまで見てきた生徒の気質変化はもちろん、学力面の変化にも注視していく必要がある。
 都内のある学区では、毎年中学校に進学してくる生徒に対して、同一問題のテストを課している。ここ数年の傾向として、今の生徒は単純な計算はできるが、ちょっとした文章題になると途端にできなくなるということが分かったという。円の面積の求め方を問う簡単な問題ですら、以前なら正答率が70~80%あったものが、近年では30%と著しく低下しているというのだ。
 このことを併せて考えてみると、小学校段階では見過ごされながら、中学校進学後に改めて明らかになる課題も多いことが分かる。S先生の言うように、小・中学校の連携に加えて、これからは高校を含めた地域が連携して、課題の早期発見や対策を考えなければならないのではないだろうか。「地域の教育力向上」こそが、今後一層重要になるのかも知れない。
 
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