02年4月、トヨタ自動車(以下、トヨタ)は「2010年グローバルビジョン」を策定し、将来目指すべき企業像を提示した。今後進展する様々な環境変化を見据えて、トヨタが目指す未来像を内外にアピールしたものだ。
実際、自動車産業を取り巻く環境は大きく変化しようとしている。環境問題は国際社会の共通の課題としてクローズアップされ、自動車メーカー各社は燃料電池車の開発に躍起だ。また、ASVプロジェクトに見られるように、クルマの情報通信化の進展も著しい。こうした環境変化が、徐々にではあるが同社の雇用にも変化を促している。
自動車メーカーである以上、技術系の募集が機械・電気系の学生中心であることに変わりはないが、従来は自動車と関係がないと思われていた分野の人材も増えている。例えば、画像認識の専門知識を持った学生は、以前は電気機器や医療機器などの分野に進む場合が多かった。しかしASV開発の進展に伴い、安全対策のために車内外に取り付けられるモニターやセンサーへの高度化の要求から、同社でも採用が増えていると言う。
しかし、こうした環境変化の渦中にあっても、トヨタの求める人材像の本質は変わらない。長期雇用を前提に、長い時間を掛けて社員の育成に力を入れる同社では、日々の業務の中で、自分で考え、自分で行動する自主独立の精神を涵養し、社員一人ひとりの成長を促すのだ。こうした自主独立の姿勢は、社員教育のスタンスに現れている。
トヨタの社員教育の中心はOJTだ。日常の業務を通して先輩が後輩にノウハウを伝え、きめ細かいナレッジマネジメントを展開していく。その際、上司は部下に向かって答えを言わないのが鉄則。「どうしたらいいのですか」は禁句だ。問題の所在はどこにあり、それをどのように解決したいのか、そこまで考えてこそ上司や先輩はサポートをしてもくれるし、それによって社員は成長していくのである。
では採用に際して、「成長する」資質を持った人材であるかどうかを、どのように見極めるのだろうか。自動車メーカーだけに、同社の採用面接には「クルマ好き」な学生が大勢詰め掛ける。しかしそのほとんどが、実はクルマが好きなのではなく「クルマのある生活好き」なのだとグローバル人事部の朝倉和彦氏は指摘する。好きな音楽を聴きながらドライブをする、ちょっとした買い物に行くにもクルマを使う――。「クルマそのものが好き」という学生は案外少ないのだ。しかし、「それでも構わない」と朝倉氏は言う。
「たとえ『クルマのある生活好き』でも、それを基に消費者の立場に立ったサービスを考えられるのなら、それは正しい興味の持ち方と言えます。文系、理系を問わず、我々が学生の資質を測る上で重視するのは、その人の興味の向き方や物事の捉え方です」
学生によって経験は千差万別。だから経験そのものではなく、それについて学生がどのように感じたか、どのように考えて行動したのかといったことを見るというのだ。
「就職する段階での知識や資格もある程度は大切ですが、それはあくまでその時点での能力に過ぎません。何事に対しても疑問を持ち、自分で考えていく力があれば、会社に入ってからでも十分に伸びます。そういう意味で、高校時代から何事にも疑問を持つようにしてほしいですね。物事の本質が見えてきて、思わぬところに興味を持ったり、自分の適性を見いだしたりするはずです。その中から、大学選びの答えも出てくるのではないでしょうか」(朝倉氏)
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