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自由競争が電力ビジネスの在り方を変える
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規制緩和により異業種からの新規参入が進む
 電力産業は今、変革の時を迎えている。
 長い間、政府の保護下で10社による地域独占の形態をとってきた日本の電力会社。高品質の電力供給、低い停電率を実現してきたものの、その代価として国民が支払う電気料金は、欧米諸国に比べて2倍近く高く、産業界からはかねてより企業活動の妨げになると批判されてきた。
 独占下の電力会社においては、コストはそのまま電気料金に転嫁され、消費者に安価なサービスを提供しようという意識は乏しかった。これが、日本の電気料金を割高にさせていた原因である。消費者に良質で、しかも安価な電力を供給するには、競争原理を導入しなければならない――。90年代以降、様々な産業において規制緩和が進む中、電力産業にも自由化の波が押し寄せてきたのである。
 まず、95年に電気事業法が改正され、翌年から独立系発電事業者による電力の卸売りが始まった。従来は、電力会社が発電から電力の供給までを一手に引き受けてきたのだが、この改正により一般企業が発電所を建設し、電力会社に卸売りすることが可能になった。そして5年後の00年3月、電力小売りの部分自由化が解禁されて、初めて電力会社以外の企業が発電から供給までを一貫して行えるようになったのである。現在、自由化の適用範囲は大口需要家に限られているが、07年までに漸次、拡大される予定だ(図1)。
図1
 規制緩和は競争を促進させる。小売りの自由化が解禁されると共に、電力市場にはビジネスチャンスを求めて多くの企業が参入してきた。中でも関係者を驚かせたのは、電力会社を大口顧客としてきた石油会社や商社、重電メーカーなどの参入である。自由競争の中で、過去のしがらみに固執していては商機を逸する。この思いが、これらの企業の新規参入を促したのである。
 新旧入り乱れての市場争奪戦が始まった。


新規ビジネスが電力産業を活性化させる
 「小売り自由化」と言っても、単に新規参入企業が電力を販売できるようになったというだけではない。燃料の調達から、発電し消費者に供給するまでを既存のプロセスにこだわることなく、各社のノウハウや事業規模に合わせたやり方で行うことができるのだ(図2)。
図2
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 自由化の流れの中で、どのようなビジネスが登場し、電力産業の勢力地図がどう変わりつつあるのか。以下に、代表的なものを見てみよう。
PPS(特定規模電気事業者)
 00年の小売り自由化後、最初に現れたのがPPS(※1)だ。

※1 PPS――Power Producer and Supplierの略

簡単に言うと、電気の小売りを行う事業者のことだが、さらに次の二つに分けることができる。一つは、自社の発電設備から得られる電気を小売りする事業モデル、もう一つは発電所を持たず発電設備を持つ工場などから余剰電力を調達し、電気の転売を行う事業モデルである。
 前者は、自ら発電所をつくることができる発電プラントメーカーや、製造業のうち工場内に大規模な発電設備を持っている企業など。後者は、いわゆる「マーケッター」で総合商社の多くがこの分野に進出している。一見、発電設備を持つ前者の方が有利なように見えるが、必ずしもそうとは限らない。と言うのは、「小売り」をする場合、直接電力を消費する「お客様」を探さなくてはならないが、消費者の開拓は製造業の得意とする分野ではないからだ。
 そこで両者がタッグを組むことで、相乗効果を上げるという発想が生まれる。すなわち、プラントメーカーや発電設備を持つ工場などが発電を、商社をはじめとするマーケッターが小売りを担当し、各企業の強み弱みを相互補完するのだ。現在、商社やガス、通信、鉄鋼など様々な企業が子会社を設けている。
オンサイト型発電ビジネス
 新しいビジネスモデルを創出し、電力小売市場に新たな道筋を付けたのがオンサイト型発電ビジネスだ。これは、顧客の敷地内に発電装置を設置して、建物全体に電力を供給する「自家発電代行業」である。発電設備を丸ごと消費者の敷地内に移動させてしまうわけで、遠く離れた発電所から電力を供給する既存のビジネスモデルとは180度異なると言ってよい。
 オンサイト型発電ビジネスの先駆けとなったのは関西のあるベンチャー企業。発電設備の製造から運営、燃料供給までを一貫して手掛けるビジネスモデルを発案しオンサイト型発電ビジネスの市場を切り開いた。既存の電力会社の販売網を切り崩し、急成長を遂げる同社の躍進に危機感を抱いた電力会社は、次々とオンサイト型発電ビジネス市場に参入した。大手電力会社といえども、自由競争による構造変化の渦中にあっては、生き残りを賭けて新規事業への進出を図らなければならないのである。
エネルギーデリバティブ
 規制緩和によって自由化が進めば、当然企業間の価格競争が激しさを増す。コスト管理の強化は電力産業にかかわるすべての企業にとって共通の課題だ。
 発電に必要な石炭や石油、天然ガスなどの1次エネルギーの価格は、輸出国における戦争や生産制限、ストライキなど地政学的要因により、往々にして変動する。コストが頻繁に変動していては先の利益も読み辛くなり、経営の不安定要因になりかねない。そこで、1次エネルギーの価格変動リスクを低減し、原料を安定的に調達するために用いられるのが、デリバティブ(※2)である。

※2 デリバティブ(Derivative)――金融派生商品とも呼ばれ、先物取引、オプション取引など様々な方法がある。株式、債券、為替など元になる商品に対して、先物(将来の時点で受け渡しする権利)やオプション(「買う権利」や「売る権利」の売買)など、「派生する」取引のことを言う。

 デリバティブとは、将来売買を行う約束をしたり、売買する権利をあらかじめ取得したりして、為替やエネルギー価格の変動で将来発生するかも知れない損失をできるだけ少なくするためのものである。銀行や商社がエネルギーデリバティブを手掛け、電力会社やPPSなどの原料調達を支援している。
 電力自由化によって生じた最も大きな変化の一つがコスト意識の発生であるとすれば、エネルギーデリバティブこそ、電力自由化を象徴するビジネスモデルだと言えるかも知れない。


急激な環境変化で求められる人材像も変化する
 地域独占時代の電力産業は「発電→送電→配電」を一手に引き受ける電力のスペシャリストであればよかった。しかし、電力自由化によって電力産業のカバーする領域は飛躍的に広がり、もはや「良質の電力を安定的に供給する」だけでは生き残ることはできなくなった。既存の電力会社も生き残りを賭けて、通信事業や環境保全、省エネのコンサルティング業務など、事業の多角化を進めている。固定観念に捕らわれていては、急激な環境変化にはついていけなくなりつつあるのだ。
 もちろん、電力産業で活躍するために必要な知識や技術も変わっていくだろう。例えばデリバティブに必要な高度な金融工学の知識は、従来の電力会社には直接関係がないと思われていた。それが今では原燃料調達上のリスクを回避する上で、欠かせない知識になっている。
 また、PPSにも見られるように、発電設備を持たなくても電力産業の担い手となり得る。電気や機械の知識がなくとも、変革の時代では電力産業のプレイヤーになり得るのだ。
 変革の時代にこそ、柔軟な発想力と新たな事業を切り開く行動力が求められる。そして、チャレンジ精神溢れる人材が活躍できるフィールドも広がっているのである。
 
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