ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
全教師による指導体制で生徒の希望進路実現を目指す
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生徒・教師による
「全員参加」の体制を、何よりも端的に表しているのが面談である。
 1、2年生は7、11月、3年生は7、12、1月に定期の三者面談を実施する(資料1)が、もちろんそれだけではない。必要に応じて随時、二者面談を実施する。多い生徒では、年に10回以上、学期内に5、6回実施する場合もあるという。3学年主任の堀口博先生は、次のように述べる。
 「3年生になると、プレッシャーに負けてしまう生徒も出てきます。そういう生徒を見逃さないためにも、面談の回数を増やすと共に、必要に応じて家庭訪問や中学校への聞き取りも行っています」
資料1
 しかし、回数以上に重要なのが面談に至るまでのプロセスだ。同校では、模試の分析結果を基に、面談の事前準備である進学検討会を実施。模試結果分析会→進学検討会→面談という流れの中で、定期の三者面談を実施している。面談は、すべて綿密に記録され、次の面談に向けた学年会や進学検討会における資料として生かされる。
 この一連の流れの中で特筆すべき取り組みが「進学検討会」である。「進学検討会」の特徴は、1学年で約280人いる生徒一人ひとりの成績について、進路指導主事をはじめ、学年主任から正副担任に至る学年団すべての教師が検討を加え、面談における指導方針を決定していく点にある。各教科の成績の推移や志望校の変遷などのデータ(資料2)を一人分ずつプロジェクターに映し出し、生徒の模試の成績に応じて志望校の適否や、各教科の学習方法の検討、学力に合った参考書の選定などを行い、面談の資料を作成していくのだ。実施時期は、面談に合わせて3年次の7、12、1月の計3回。1回の検討会につき丸1~2日かけて行う。
資料2
 進路指導主事の枝川久先生は、同検討会の効用について次のように述べる。
 「全生徒の成績を、学年団の教師全員で検討することの意味は大きいと思います。三者面談はもちろん担任の教師が行いますが、そこで伝えられる内容は、学年全体の言葉です。教師一人の独断に陥る危険性もありませんし、生徒も保護者も教師全員で成績を見ていることを知っていますから、一つひとつの指摘が重みを持ってくるのです」
 すべての教師が生徒の実状を把握しているため、例えば生徒が急な面談を申し込んだ際に担任が不在であっても、別の教師が代わりに応対することができる。保護者からの問い合わせに対しても、学年の全教師が対応できるので、保護者は安心して生徒を任せられる。さらにこうした緻密な面談プロセスが、生徒と教師の信頼関係を醸成しているようだ。
 「生徒には、学年のすべての教師が自分のことを把握してくれているという安心感がありますから、職員室にも気軽にやって来ます。進学以外のことで相談に来る生徒も少なくないですね」(堀口先生)
 また進学検討会は、生徒に向けた進路指導に効果を発揮するだけではない。教師にとっても得るものが大きいという。
 「進学検討会は、進学校以外の高校から赴任してきた教師や、進路指導の経験の少ない教師にとっても勉強になります。各大学のレベルや入試システム、生徒の学力に応じた指導法など、1学年280人分の面談資料に目を通すうちに自然と覚えていきますからね。また、検討会では生徒の進路や成績だけではなく、生徒の性格や過去のエピソードなども話題になるので、初めて担任をした生徒に対しても、進路指導を行うことができるようになりました」(杉田先生)
 模試分析から面談までの流れが学校の指導体制として確立していることも、新任教師へのノウハウ伝承を確実なものにしている。
 「すべての教師が面談までの流れや進学検討会の意義などを理解しているため、新任教師も戸惑うことなく流れの中に入っていけますし、ベテラン教師の異動で取り組みが立ち消えになることも、今ではありません」(小山先生)


同校の強みは
進路指導だけでなく、生活指導にも力を入れている点にある。「生活指導が本校の生徒育成の基盤をつくった」と、同校の教師は口を揃えて言う。
 「進学校では勉強だけしていればいいと思っている保護者もいるようですが、本校では進路指導と生活指導を生徒育成の『両輪』としてどちらも重視しています。近年の大学合格実績の伸びもその『両輪』の相乗効果によるところが大きいと思います」(枝川先生)
 生活指導についても他の取り組み同様、全員体制で臨んでいる。頭髪やアクセサリーなど日常的なチェックだけではなく、年2回、4月と9月には3年生も含め、全校的な服装指導を実施している。
 「服装や生活態度が乱れた生徒が増えてくれば、全体的に気持ちが浮ついて、勉強に向かう時期も遅れてしまいます。落ち着いて勉強できる雰囲気や環境をつくれば、教師の話もしっかりと聞くようになります。そうした雰囲気をつくることが、実は進路指導にとってとても大切なことなのです」(杉田先生)
 危機意識を背景に、全員参加の指導体制を浸透させた下妻第一高校。進路指導と生活指導を学校改革の両輪として機能させたことが、同校の躍進を支えている。しかし枝川先生は、取り組みの成果を認めつつも、次のように気を引き締める。
 「『この学校はこれでいいんだ』と言って満足していたのでは、これ以上の発展は望めません。今は成果を上げていますが、今後、受験環境や生徒気質の変化が進めば、また新たな工夫が必要になります。常に教師全員で課題を認識し知恵を絞って解決策に取り組む。この姿勢が地域の要望に応えられる進路指導を実現し、学校を発展させるのだと思います」
 
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