ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
教師ネットワークを日々の指導改善に生かす
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「研究プロジェクトで
一緒に勉強しましょう」というメッセージに呼応した教師が、実際に研究プロジェクトをスタートさせたのは、全英連高知大会を約2年後に控えた99年のことだった。その中の一つである公開授業について研究する「授業研究プロジェクト」には7人の教師が集まり、月1回のペースで研究会が行われた。同研究プロジェクトのチーフを務めたのは、高知追手前高校の田邉法人先生だ。
 「当時の私は、特にリーディングの指導方法に悩んでいました。生徒のモチベーションが今一つ上がってこないのを教えながら感じていたんですよ。でも情報交換をする場がそれまではなかったから、経験と勘で乗り切るしかなかった。そんなときに研究プロジェクトを通じて多くの教師が指導方法に悩み、かつ真剣に取り組んでいることを知り、是非参加したいと思ったのです。メンバーとの討論は刺激的で、より一層研究を深めていこうという意欲もわいてきました」(田邉先生)
 メンバーとの討議の末、公開授業のテーマは、田邉先生がまさに直面していた「リーディング指導」に決まった。公開授業でどのようなリーディング指導を行うのか。さらに、討議を進める中で出てきたのが、従来の英文和訳で行っている授業方法とは全く逆の「和訳先渡し」の手法だった。研究プロジェクトメンバーの一人だった高知西高校の山田憲昭先生は、討議の過程を次のように語る。
 「まずは議論の叩き台として、田邉先生に普段のリーディングの授業を行ってもらいました。それをビデオに収めて、メンバー同士で見ながら問題点や課題を検証していたときのことです。悪い授業ではなかった。でも、その時の指導講師の先生からいただいたコメントはショックでしたね。生徒たちが読んだ英文の量は、平均すると1分間で2語だったと言うんです。これでは読解力が付かないのは当然だ。ではどうすればいいか。そんな中で和訳を先渡しにすれば時間的な余裕ができ、その時間は繰り返し英文を読む活動に充てられるだろうという発想が出てきたんです」
 和訳先渡しの授業では、生徒に訳文とタスクが書かれたワークシートが渡される。生徒は「著者の意見が書かれた英文に下線を引け」といったタスクに答える形で英文を読み込んでいく。通常の英文和訳の授業だと、英語を日本語に置き換えれば終わりであり、和訳をつくることがゴールになってしまう。しかし、先に和訳があれば、必然的に出口は英語になる。こうして、タスクに取り組みながら繰り返し英語を読むことで、英語を体で覚えていくのだ。
 「和訳先渡し授業が本当に可能かどうかメンバーで授業案を作成し、実際に一人が模擬授業を行いました。さらにその授業もビデオに収めて全員で検証し、和訳先渡しの授業方法をより完成度の高いものへと練り上げていったのです。大会本番での公開授業は私が担当しましたが、私はアンカーにすぎないわけで、公開授業をつくり上げたのは研究プロジェクトに参加した教師全員です」(山田先生)


教師全員で、
一つの研究テーマを練り上げていく。その意義を感じたのは「授業研究プロジェクト」だけでなく、他の研究プロジェクトに参加した教師も同じだった。
 全英連高知大会の終了後、授業研究や各分科会の研究テーマに携わった教師から「これからも教師間で授業研究を行う場を設けてほしい」という声が寄せられた。長崎先生が蒔いた種は、着実に芽吹きつつあった。
 02年度、田邉先生は事務局長にとどまり、山田先生は新たに研究部長に就任。もちろん二人共、このネットワークを全英連高知大会が終わったからといって縮小することは考えていなかった。再び県内の英語科の教師全員に研究プロジェクトへの参加を呼び掛ける手紙を送付。そして参加意志を表明した教師によって、02年度には「シラバス研究」や「ディベート研究」など、新しく9つの研究プロジェクトが立ち上げられた(図1)。
図1
また、各研究プロジェクトの研究成果を共有化するために『ねっこ』というニューズレターも発刊された。「高知県英語ディベート大会」への参加の呼び掛けや「英語教育セミナー21」の実施報告など、教師間の連帯意識を喚起する様々な情報が掲載される。
写真
 新たに発足した研究プロジェクトの中でも、特に活発な活動を行っているのは、田邉先生や山田先生も参加しているディベート研究プロジェクトだ。
 「ディベートでは、生徒たちは大量の英文資料を読み込み、それを自分の言葉として表現しなくてはなりません。また相手の意見をきちんと聞いた上で自分の意見を言えないと、ゲームには勝てません。つまりディベートは読む、書く、聞く、話すという英語で必要とされる四技能をすべて使わなくてはいけないという点で、非常に優れた活動です。ところが教師の多くが、実際にはディベート未経験者なんですね。そこでディベート研究プロジェクトでは、大学の教員を招いたワークショップなどを開催し、テーマ設定やディベート本番に至るまでの準備、ジャッジについての研究などを重ねてきました」(山田先生)
 この研究プロジェクトで着目したいのは、研究で得られた成果を、教師が日々の授業に還元している点だ。山田先生が勤務する高知西高校では、全学年の英語科クラスの生徒たちが参加する校内ディベート大会を実施。また、田邉先生が勤務する高知追手前高校では、1年生全員を対象としたオーラルコミュニケーションIの授業の中に、ALTとのチーム・ティーチング形式でディベート指導を取り入れている。
 「高知追手前高校のオーラルコミュニケーションでは、3分間スピーチから始めて、最後はディベートで終えるというように、段階を追った指導案をシラバスの中に取り入れています。この指導案を作成する上で役立ったのが、研究プロジェクトメンバーのアドバイスです。授業で出てきた課題を研究プロジェクトで討議し、そこで得られた成果を、次回からの授業に生かす。こうして授業内容がより深化していくのです」(田邉先生)
 教師ネットワークによって、授業改善のための討議を行い、成果を実践にフィードバックする。高知県の高校英語教育の現場では、その態勢が確実にでき上がりつつある。
高知県英語ディベート大会
 
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