ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
小・中・高校、地域が連携して新たな国語教育を模索する「国語力向上推進事業」
加藤健治
福井県立敦賀高校教諭
加藤健治
Kato Kenji
教職歴24年目。同校に赴任して4年目。進学指導部長。国語担当。「授業の中では、生徒を誉めて伸ばすことを心掛けています」

西田昌弘
福井県立敦賀高校教諭
西田昌弘
Nishida Masahiro
教職歴11年目。同校に赴任して8年目。国語科主任。「お互いに分かり合える濃いコミュニケーションが深まる場になるような学校をつくりたい」
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 03年4月23日、文部科学省は「児童・生徒の国語力向上のために総合的に取り組む」ことを目的に「国語力向上推進事業」の実施を決定。同時に「国語力向上モデル事業」として全国22の地域をモデル地域に指定した。指定地域の各校に対しては、今後2年間に渡り、一定額の研究費が支給される。また、国語教師の授業スキルの向上を図るべく「国語指導力向上講座」も設置している。
 この事業の背景には、もちろん児童・生徒の日本語運用能力の低下が挙げられる。だが、今回の事業は、決してこの問題の解消のためだけにあるのではない。「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」に象徴される「国際社会で活躍できる日本人の育成」というビジョンや、国語力の向上で他教科の学力向上を図るという目的も併せ持つのである。資料1に文部科学省の報道発表資料を示したが、今回の事業がSELHi(スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール)やSSH(スーパーサイエンスハイスクール)などとも有機的な関連性を持ち、「学力向上」という大局的な目的を達成するための事業であることが分かる。
資料1
 今回はこの事業を現場がどう捉えて、実践しようとしているのか、指定を受けた福井県立敦賀高校の先生方にお話をうかがった。


「地域指定」を受け小・中・高校が連携して一つの課題を研究
 「国語力向上モデル事業」でまず注目されるのは、それが各学校単位の研究ではなく、地域の複数の学校が連携して研究を行う事業である点だ。多少のばらつきはあるものの、基本的には一定地域内の小・中・高校、合わせて10校程度が一つの研究単位として指定を受けている。敦賀地域では、小学校3校、中学校1校、高校1校が指定された。国語科主任の西田昌弘先生によれば、敦賀地域の指定校では、指定当初から「地域指定」に関して明確な問題意識が共有されていたようだ。
 「教科学力にとどまらない、本質的な意味での国語力を育成していくためには、各学校単位の取り組みでは不十分です。むしろ、本当に必要とされているのは、生徒の発達段階に応じて小・中・高校が体系的な指導を行うことだと思います。今回の事業が『地域指定』である意義については、本校と一緒に指定を受けた小・中学校の先生方も強く意識されています」
 実際、敦賀地域の場合には文部科学省の公式説明会が行われる前に、敦賀市の教育委員会が中心となって「国語教育推進協議会・連絡準備会」が5月に開催された。地域としてどのような取り組みが可能なのか、指定を受けた各校が事前に知恵を出し合い、目線合わせを行うためである。
 「会議に参加して改めて感じたのは、私たちが『国語力』をあまりにも固定的なイメージで捉えていたことです。高校の国語というと、どうしても教科学力の育成=国語力というイメージで捉えてしまいがちですが、小・中学校では英語教育や国際理解教育とリンクさせながら国語力の育成を図っている学校や、会話技能・コミュニケーション能力の育成を軸に国語の授業を展開している学校もありました。同じ国語に対しても多様な捉え方があることを改めて実感できました(資料2)。小・中・高校が一堂に会することによって、全く新しい指導の在り方が見えてくるのではないかと、今後に期待が持てる会になったと思います」(西田先生)
資料2
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 こうした話し合いの場として、文部科学省は各地域ごとに「国語教育推進協議会」を設置することを求めている。福井県では第一回目の会合が7月2日に開催されたが、この会議において注目すべき点がある。それはPTAの代表もオブザーバーとしてこの会議に参加したことだ。これは先の連絡準備会で地域の巻き込みを図るため、保護者にも是非参加してほしいという要望を受けて実現したものだそうだ。
 「地域が一体となって国語力を育成することがこの取り組みの目的ですから、地域の方を抜きに取り組み内容を考えることはできません。学校と地域が協力して、どのような取り組みを行うことが可能なのか、以後も月1回のペースで話し合いを続けることが決まっています」(西田先生)
 このような動きは他の指定地域でも本格化しつつある。全国各地では今、小・中・高校を縦につないだ研究組織の設立が相次いでいるのだ。
 
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