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小・中・高校、地域が連携して新たな国語教育を模索する「国語力向上推進事業」
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問題意識として共有化された「伝え合う力」の育成
 地域として取り組むべきテーマについては、文部科学省から資料3に示したような指針が全国一律で示されている。実際には各指定地域が、独自の事情を踏まえたより具体的な研究テーマを設定することになる。そこで敦賀地域では「伝え合う力」の育成というキーワードが、共通の研究課題として浮上した。
資料3
 「総合的な国語力の育成を図っていくためには、『読む』『聞く』『話す』『書く』といった基本技能をバランスよく伸ばしていくことが不可欠です。その点で『伝え合う力』という目標は、小・中・高校がそれぞれの発達段階に応じて総合的な国語力を身に付けていく上で、適切なのではないかと考えています」(西田先生)
 これを受けて、現在、敦賀高校の国語科では、教科会を通じた授業方法の改革や、「総合的な学習の時間」の見直しなどが進められている。
 「授業の中で『伝え合う力』を育成するために、特にペアワークを取り入れた授業方法の研究を重視しています。例えば古文の読解を進める際にも、まず、生徒同士で互いに読み合わせを行ったり、互いの音読を評価し合ったりする活動を取り入れています。一方、『総合学習』についても、従来よりもディベートや、職業人インタビューといった対話型の活動のウエートを高めていきます」(西田先生)


児童・生徒の発達段階を踏まえた到達目標の設定
 学校独自の取り組みが進められる一方、「伝え合う力」というテーマを地域全体で追究していく方法についても議論が行われている。特に、小・中・高校それぞれが、同じ目標に向かってどのように役割を分担していくかという点は、今後の重要課題だ。進学指導部長の加藤健治先生は次のように語る。
 「小・中学校との議論を通じて互いに見えてきたのは、各学校の行っている教育活動が、必ずしも生徒の発達段階にふさわしいものにはなっていないということでした。例えば、同じディベートでも、高校生に求める水準と、小学生に求める水準は当然異なるはずですよね。しかし、実際にはその点の認識が曖昧で、小学校も中学校も高校も、同じゴールを目指して活動している場合が少なくありませんでした。今後は、児童・生徒の発達段階を踏まえた上で、小・中・高校が目線合わせをしながら活動目標を設定したいと考えています」
 例えば、同じディベートを行うにしても、小学校段階ではディベートの基本ルールや会話そのものを楽しむ姿勢を、中学校段階では主張をまとめたり、論理的に相手に伝わるような会話手法を、高校では議論に勝つためのテクニックなどを習得させる、といった役割分担が考えられる。また、小・中・高校で一貫して続けられる活動を取り入れることで、地域として効果的な学習を進めていくことも検討されている。西田先生は同校の「朝読書」の指導経験から、その重要性を指摘する。
 「本校では以前から朝読書を実施していたのですが、昨年度から隣の中学校も朝読書を導入したところ、ある変化が起きました。その中学校で朝読書を経験してきた生徒がいることで、クラス全体の朝読書に対する姿勢が積極的になってきたのです。各校が目線合わせをしてこのような取り組みの輪を地域に拡大していけば、教育効果を飛躍的に高めることができるのではないかと思います」


国語教育の在り方を見直す突破口になる可能性も
 冒頭でも述べたように、「国語力向上推進事業」はSELHiやSSHと並び「学力向上アクションプラン」の一環として位置付けられている。前述の通り、敦賀地域のケースでは、同じ国語力育成についても、国際理解や日本語教育といった、スタンスの異なる小学校が指定を受ており、今後の事業展開を見据えた幅広いモデル校の選定となっている。加藤先生は、国語力育成に対するこうしたアプローチの変化が、高校の国語教育の在り方にも影響する可能性を指摘する。
 「韓国が日本のセンター試験に当たるテストで母国語によるリスニングテストを課しているように、日本においても、情報伝達のツールとして母国語を捉える発想が今後は重要になってくると思います。数学の文章問題を読み解く力や英語の長文読解力を国語の指導を通じて向上させていくには、確かに国語指導の在り方を変えていかなければなりません。『国語力向上推進事業』は、日本の国語教育を見直していく上での一つの契機になるのではないかと思います」
 
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