ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
指導力向上を図る研修・育成の在り方を探る
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STEP1
作問会議が指導力向上の場
 作問までのプロセスは教科によって異なる。例えば数学では、担当の9人の教師すべてが各3問ずつオリジナルの問題を持ち寄り、教科主任が中心になって検討を加えていく。問題完成までは3~4回の作問会議を重ねるが、1回の会議につき3~4時間は掛かるという。一方、化学は模試ごとに担当教師が替わる輪番制を採っている。3人の教師のうち一人が担当になり、まず原案を考える。その原案を他の教師が解いた上で、やはり3~4回の作問会議の中で手直しをしていく。
 だが、こうした回数や時間よりも重要なのが、作問会議で交わされる徹底した議論である。進路部の高野正明先生は、次のように述べる。
 「生徒の実力を向上させるためにはどのような問題を出すべきか、すべての教師が納得のいくまで、一つひとつの問題について検討していきます。もちろん、模試の問題としてふさわしくないと思われたものは、どんどんカットされます。だから、問題ができ上がる頃には、原案の半分は影も形もなくなってしまうことも珍しくありませんね」
 こうしたプロセスは、問題を精緻化していくだけでなく、教師の作問技術を磨き教科指導力を向上させる役割を担っているのは先述の通りだ。
 「転任1年目から完全な問題を作ることはまず無理でしょうね。特に難しいのは、良い問題が必ずしも採用されるとは限らないことです。模試の作問を行うには、生徒が徐々に力を付けていけるよう、計5回の校内模試を見通した上で、問題の難易度や出題する時期を考えなければなりません。そのため『この問題は次回の方が適している』とか『もう少し易しければ大問の2問目に使える』などの理由で却下されることが少なくないからです。転任当初は、まず問題を作ってみて、先輩のアドバイスを受けながら作問のコツをつかんでいくことになります」(高野先生)
 同校に転任してくる教師の多くは、他校で10年近い経験を積んでいる。しかし、同校では東北大法学部のレベルを50点になるよう作問する制約があるため、必ずしも他校での作問経験が通用するとは限らない。それでは、同校の教師は作問テクニックを磨くために、どのような研鑽を積んでいるのだろうか。生物科の沼尻良一先生は次のように述べる。
 「まず欠かせないのは、毎年主要大学の入試問題を片っ端から解いていくことです。そうすれば、入試の傾向や難易度などの流れは自然と把握できるようになります。私の場合は、さらに10数年分の入試問題をルーズリーフに貼ってファイルしたり、過去の校内模試の問題を分野別に整理したりして、データを蓄積するようにしています。入試問題と校内模試との比較、過年度との比較などが容易にできるので、転任当時はもちろん、現在でも役立っていますね」


STEP2
模試分析会議で指導の方向性を確定
 校内模試実施後には、「模試分析会議」が開かれる。会議の目的は、模試の結果判明した生徒の弱点をどのように補強していくのか、学年全体でコンセンサスを取り、面談や授業改善に生かしていくことにある。会議の手順は、
(1)各教科で模試の得点度数分布や平均点などの基礎的なデータを算出し、学年の成績についての分析結果を進路部に提出
(2)データと分析結果を基に、進路部としての意見や、進路部から各教科への質問事項などを記した模試分析会議資料(図5)を作成
図5
(3)質問事項を基に全体の分析会議を実施し、進路部・クラス担任と教科との間で質疑応答を行う
 (3)の全体の分析会議では「例年と比較して学年全体の力は上がっているのか」「文理差が縮小しているのは文系が力を付けているためなのか」など進路部やクラス担任から矢のように質問が飛ぶ上に、模試の成績が思わしくなかった教科に対しては、その対策まで求められる。
 進路部の横尾浩一先生は、次のように述べる。
 「分析会議直後に生徒との面談を控えているクラス担任は、弱点を補強するためにはどのような対策が必要か、具体的なアドバイスを生徒に与えなければならないため、納得のいくまで質問を繰り返します。各教科の質疑応答は30分から1時間くらいですが、長いときは夜まで持ち越されることもありますね。このように各教科の担当教師が、それぞれのクラス、生徒ごとに効果的な対処法を考えることも、作問同様、教科指導力向上につながるのだと思います」
 各教科に対する質疑応答の後は、全体の総括になる。各教科の強み・弱みが分かれば、全体の傾向も見えてくるため、会議の中で学年全体の指導方針も明確にされていくのだ。


STEP3
模試結果を面談・授業改善に生かす
 全体の分析会議が終わると、翌日からクラス担任による面談が始まる。面談期間は1週間から10日間で、計5回すべての校内模試において実施される。作問が教科指導力向上の研修だとすれば、面談は生徒指導力向上につながる研修だと言える。
 「面談は分析会議を通して学年全体で綿密に定められた方針に基づいて行われますから、担任は自信を持ってアドバイスができますし、生徒も安心して受験対策に打ち込めるようです。本校は定期テスト終了後にも、検討会こそないものの、毎回面談を設けています。担任は年間8~10回は面談を行うわけですから、否が応でも指導ノウハウは身に付きます」(横尾先生)
 さらに分析会議の結果は面談だけでなく、授業改善にも反映される。作問→分析会議という流れの中で練られた指導方針・方法は、実際の指導にも生かされているのだ。
 「分析会議の結果、生徒の弱点が判明すれば、教科内でコンセンサスを取って即授業に反映させるのが本校の方針です。例えば、計算力が毎年落ちていることが分かれば、すぐに授業でアドバイスする。もし、その時点で進めている単元以外で弱点が見つかれば、授業内容と関連を持たせて解説する、あるいは課外授業の時などに弱点分野の問題を集中的に補強するなど、間を置かずに対応するよう心掛けています」(高野先生)
 基準点がぶれないように作問を行い、その成績を基に指導の方向性を定めていく同校のシステムは、一朝一夕で確立できるものではない。長い年月を掛けて、一人ひとりの教師がノウハウを体得し伝えてきたからこそ、学校全体で高い教科指導力を維持することができるのである。
 
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