ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
大学入試改革の意図を読み解く
荒井克弘
東北大大学院
教育学研究科教授
国立大学協会第2常置委員会
専門委員
荒井克弘
Arai Katsuhiro
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大学大衆化時代の到来が入試制度改革の原点
――大学入試改革の必要性が叫ばれ、国立大のセンター試験5教科7科目化やセンター試験へのリスニングの導入(図1)が決定しました。しかし、次々と改革案が打ち出される一方で、高校現場では、「改革全体のバックグラウンドが見えにくい」という声が上がっています。改めて大学入試改革の背景をうかがえますか。
図1
 大学入試改革の最も大きな背景を成すのは「大学大衆化時代」が現実に到来している、という社会情勢です。60年代頃までは、大学レベルの教育を必要とする人はそれほど多くなく、大学進学率も10%前後で推移してきました。また、大学を受験するのはエリート志向の学生に限られていたため、大学側は「相対的に学力の高い学生を選抜する」ことさえ考えていれば、自ずと大学で学ぶにふさわしい学力を持った学生を確保できたわけです。
 しかし、社会で求められる知識や技能水準が高まり、大学進学熱も高まるに連れ、大学進学を目指すのは必ずしもエリート志向の学生だけではなくなりました。また、一部の大学では、経営的な視点から、ともかく学生数を確保することを優先するような学校経営が行われ、学力評価をないがしろにした入試も広範に行われるようになりました。その結果、大学が求める学力を備えていない学生が増加し、大学教育が立ち行かなくなってきたわけです。大学入試改革は、こうした状況を是正するための改革と位置付けられるでしょう。
――いわゆる「学力低下」問題が背景にあるということでしょうか。
 学生全体の「学力低下」というよりは、大学で学ぶ学力がない学生をも受け入れてしまう、現在の入試システムの問題だと思います。実際、全国の大学1年生のうち3割程度は、学力選抜を受けていないという状況なのです。


「選抜」から「接続」を重視した教育システムへの転換
――入試制度を変える前に、大学の入学定員を削減すべきだとの声もありますが、どのようにお考えですか。
 確かに定員数の増加は、なし崩し的に進行してきた部分がありますから、そうした批判があるのは分かります。しかし、社会で求められる知識・技能水準が飛躍的に高まった現在、大卒レベルの知識・技能を持った人材が、今後益々求められていくのは間違いありません。ですから、いくら学力低下が叫ばれようとも、大学レベルの知識・技能水準を持った人材を多数育成しなければならないことは国家的な課題なのです。
 よって、今後の入試改革においては、「大学で学べるだけの学力を持った人材を選抜すればいい」という視点では立ち行きません。むしろ、「誰もが大学に進学する」という社会情勢を前提とした上で、「教育制度全体として、きちんと大学卒業レベルの学力を育成する」という視点が求められます。私はこれを、「選抜システム」から「教育システム」への改革と呼んでいます(図2)。
図2
後者のシステムにおける入試とは、各教育段階ごとの「選抜」機能を担うものではなく、「接続」を図る制度として位置付けられると思います。つまり、そこで問われるのは相対的な学力の優劣ではなく、「各教育段階で必要な(絶対的な)学力要件を満たしているか」ということなのです。ある種の資格試験のような位置付けと言えるかも知れません。
 
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