ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
大学入試改革の意図を読み解く
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入試易化への歯止めを狙った「総合基礎」
――「高大の接続教育」を意図した入試が今後求められるということですが、昨今の入試改革の具体案の中に、そうしたビジョンを示したものはありますか。
 まだ入試の枠には入れられていませんが、04年度から大学入試センターでの実施が決まった「総合基礎」が挙げられると思います。「センター試験の難易度を下げたバージョン」として受け取られていることが多いのですが、その意図の一つは「大学入学の最低レベルを示すこと」にあります。先程の話にも出ましたが、現在の大学入試の中には、実質的な倍率の存在しない、学力選抜があってないような試験が少なからず見受けられます。だからこそ、高校段階できちんと学力を身に付けていない学生まで入学できてしまうわけです。「総合基礎」は、こうした状況に対する歯止めとして打ち出されました。「大学進学を目指す高校生には、最低限これだけのことを身に付けさせてほしい」という高校現場へのメッセージがそこには込められています。
――ある意味で、大学入試の「資格試験化」の第一歩と位置付けられますね。実際の利用シーンとしてはどのような場面が想定されているのでしょうか。
 現在のところ、推薦入学やAO(アドミッション・オフィス)入試など、学力選抜を受けないで大学に入学した生徒に対し、入学後に受験させる方針で話が進んでいます。具体的には地方国公立大などでの活用が考えられています。今後の運用にもよるのでしょうが、私自身は、推薦入学やAO入試を受験する受験生に対し、高校在学中に事前受験させる方向がベストなのではないかと思います。「学力要件を測る指標」という位置付けが明確になりますから。
 一方、低学力層の成績評価指標として、現在のセンター試験が十分に機能していないという問題に対しても「総合基礎」の実施は一つの回答になるのではないかと思います。平均点を8割程度に想定していますから、従来のセンター試験では判別の難しかった成績差を、きちんと計測できるものになると思います。実施する中で有効性が実証されてくれば、入学要件として受験を義務付ける私立大なども出てくるのではないかと思います。


AO入試の位置付けが見直される
――「総合基礎」は、ある意味ですべての大学に対するメッセージだと思うのですが、各大学が独自に入試制度を見直す動きとしては、どのようなものがありますか。
 今後、どの大学でも顕著になってくるのは、AO入試の位置付けの見直しだと思います。
 現在のAO入試は、多くの場合「学力以外の評価を尊重する入試制度」として位置付けられており、学生の「やる気」や「専門適性」などに重点を置いています。どちらかと言えば「教科学力は必ずしも高くなくても、意欲のある学生を獲得するための制度」といった見方をされていますよね。しかし、現在の一般入試が、有効な学力選抜の基準として機能していない状況があるわけですから、大学によっては、現在利用している評定平均値に加え、独自の学力試験を課すなど、AO入試を学力評価中心に再編するところが出てくるかも知れません。
 実際、AO入試の本場アメリカでは、AO入試は必ずしも「学力によらない指標で受験者を選抜する制度」とはみなされていません。あくまでも「総合的な見地から、より正確に受験生の力を把握するための制度」として位置付けられています。したがって、「やる気」「専門適性」といった指標は、学力を含めた扱いになっています。どうも日本のAO入試は、この事情を誤解したまま、制度だけが拡大したような観がありますね。
――旧帝大クラスの大学も含め、最近はAO入試の定員が拡大する傾向にあります(図3)。この裏には、そうしたAO入試に対する位置付けの変化があると見てよいのでしょうか。
図3
 今まで多くの大学は、学生の「青田買い」の手段としてAO入試を拡大してきたところがあります。しかし、そんな中にあっても、真面目にAO入試に取り組んできた大学では、相応の成果を上げているようです。今後は一般入試の機能を代替するものとしての位置付けが強まってくるでしょうね。
 
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