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COEは大学教育をどのように変えるのか
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3 人材育成を重視した研究計画
研究環境の大幅な改善
 COEは、結果的に先端領域の研究力の向上を謳うと同時に、次代を担う若手研究者の育成をも重視するものとなった。例えば、ポストドクターや大学院生の雇用などがこれに当たる。特に2年目に当たる03年度にはその方向が明確化し、名古屋大で採択された研究の中には、交付金の8割近くを人材育成に充てるプランもあるという。この点に対して坂神総長補佐は次のように指摘する。
 「実は、日本の科学研究においては、人材育成に掛ける予算が非常に少ないのです。大学院生の『ただ働き』によって支えられているような研究室も珍しくありません。COE予算を人材育成に振り向けることは、研究環境の適正化という意味でも、健全な使い方と言えると思います」
 もっとも、人材育成のための使途が考えられている背景には、予算額としての少なさもあるようだ。
 「COEは、見た目の華やかさとは裏腹に、予算面で見ると実はそれほど大きなものではないのです。拠点指定を受けた研究単位の多くは、年間10億円単位の研究費を使うようなグループがほとんどなのですが、これに対してCOE予算はせいぜい1、2億円程度の支給にとどまります。ですから、多くの研究拠点では、研究予算は科学研究費などの競争的外部資金で賄い、COE予算は純粋に人材育成に使うという考え方のようです。COE指定を受けて知名度が高まれば、外部資金の獲得も有利になりますから、ある意味これは合理的な考え方と言えるでしょう」(福井総長補佐)
 人材育成に億単位の予算が確保できることは、大学にとって大きなメリットとなる。年間1億円の予算は、ポストドクター数名を研究費付きで雇用するのに十分な額だからだ。
 「COEについては、大学ランキング的な発想で報道されることが多いのですが、実際に研究環境を変えていく力があるという点を、もっと高く評価しても良いと思います。特に大学院進学を考えている学生の動向にはボディーブローのように効いてきますから、5年、10年単位で見たときに、指定を受けた大学と受けなかった大学の間には、抱える学生の層にかなりの差が出ているはずです。結果的にそれは、目に見える研究力の差となって現れてくるでしょう」(坂神総長補佐)


COEの成果を大学はどのように捉えているのか
 このように名古屋大では、COE採択に向けて、学内での研究の在り方、人材活用などにかなりの意識改革が見られたようだ。もちろん、「大学の無駄な序列化を生む」「基礎研究がおろそかになる」といった批判があるのも事実だが、坂神総長補佐、福井総長補佐共に、「COEプログラムはここ数十年で最も成功した大学政策ではないか」と、その意義を評価している。
 「当初は学内にCOE獲得に消極的な意見があったのも事実です。しかし、『研究拠点に対する評価』と言いつつ、実質的にそれが『大学に対する評価』と受け止められている以上、各大学は否応なく競争に巻き込まれたわけです。私自身は、この点はむしろ積極的に捉えてよいのではないかと思います。COE採択の件数が、そのまま研究力の指標になるわけではありませんが、少なくとも『研究姿勢・教育姿勢の見直しを積極的に進めている大学かどうか』を図る指標としては確実に機能するでしょう」(福井総長補佐)
 一方、坂神総長補佐が指摘するのは、大学独自のカラーが今まで以上に鮮明になった点である。
 「例えば本学の場合、従来は『旧帝大』というくくりで、あまりその個性を認知されていませんでした。しかし、COEという指標が現れたことで、本学が特色ある研究グループを擁していることが認知してもらえたのです。また『研究拠点』に対する評価としたことで、単科大などの小規模大や地方大にも参入の機会を確保したことは高く評価してよいのではないかと思います。大学に独自性、高度な専門性を求める視点を改めて提起したことは、決して過小評価すべきではありません」
 今、日本の大学は三つの方向軸で動きつつある。一つ目は学問の深化、二つ目は種別化(機能分化)、三つ目は相対化(評価)の軸である。COEは、各大学、大学院を評価していく意味で、各大学、大学院の役割・機能に大きな影響を与えていくだろう。文部科学省は、大学の活性化に効果を上げているとして04年度以降のCOEプログラムの継続、研究拠点の追加を決めた。今後、高等教育の改革が加速していくことは間違いないだろう。
 
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