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COEは大学教育をどのように変えるのか
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1 申請に向けた絞り込みの徹底
大学のアイデンティティの明確化
 同大においては、COE申請に向けて、徹底した学内選抜が行われた。例えば、02年度には採択数7に対して申請数11、03年度には採択数6に対して申請数12と、申請数そのものが相当絞り込まれている。その背景には、COEの意図に対する次のような認識があった。
 「COEの目的の一つは『世界的な研究拠点』の育成です。厳密に考えれば、一つの大学に20も30も世界的な研究拠点があるとは考えにくいはずです。そのことを踏まえ、学内選抜の段階では、真に世界レベルの研究が可能なのかどうか、研究計画の内容、人材、これまでの実績などについて厳しく審査しました」(福井総長補佐)
 学内審査では、ワーキンググループのメンバーはもちろん、総長や副総長も同席した上で、研究リーダーとの質疑応答が行われた。その際には、日本学術振興会で行われる本番の口頭審査も見越し、できるだけ本番と同じ環境、時間(各研究案件ごとに35分)が設定された。その様子は、さながら模擬面接のような雰囲気であったという。
 「本番で口頭審査を通過するためには、単に研究業績に優れているだけでは十分ではありません。面接官の質問に手際よく答えられるか、制限時間の中で研究計画を端的に説明できるかといった能力も厳しく問われます。もしこうした点で改善が見込めなかった場合には、研究リーダーの人選を見直してもらいました」(坂神総長補佐)
 さらにこの時点では、テーマが類似した研究計画や関連性の高いものを同じテーマに統合する、といったことも行われた。また、研究としての迫力を欠くと判断されたものについては、申請を取りやめるよう要請された。福井総長補佐は特にこの点に大きな効果を感じている。
 「従来、大学における研究というのは、あくまでも研究者個人の専門分野や、興味の方向性に応じて行われていました。つまり、『○○大の文学』『○○大の理学』といったアイデンティティはできにくい状態にあったわけです。しかし、COEの申請に向けては、全学的な視点から、研究の重要度の判断や合理化が図られました。こうしたスタイルが浸透することは、大学が独自のアイデンティティに基づく研究機関となる上で、一つの画期的な出来事だったと思います」


2 研究単位の規模の調整
領域横断的な研究の活性化
 COEの申請に当たっては、10~20名の教員をメンバーとすることが求められていたが、この数字には重大な意味があったと福井総長補佐は指摘する。
 「通常のプロジェクト研究の規模は、せいぜい5、6名です。時には10名以上の規模になることもありますが、それは他大学の同じ専攻分野の研究者が集まっている場合がほとんどです。しかし、同一大学で10名以上の研究単位をつくろうとすると、どうしても専門分野の異なる教員同士が集まらざるを得ないのです」
 結果、名古屋大では、各学部単位で「熾烈なコミュニケーション」(福井総長補佐)が始まった。隣接分野をうまく統合した研究の可能性はないのか、あるいは、研究者それぞれの専門分野をどのように生かせば、魅力的な研究計画が立てられるのかが真剣に話し合われたのだ。
 「中には『数合わせ』的な発想で人数だけ揃えて、研究の相互関係が未整理な研究計画も見られました。そうしたものについてはもちろん学内選抜の段階で是正していきました。この点は、これまでの研究の在り方に大きな影響を与えたと思います。実際、ある研究科では、まず、若手の研究者を指名して、ともかく体系性のある研究プランをつくらせたのだそうです。従来でしたら、研究科内で意見調整を行ってから研究計画書を書き上げていたのですが、そうした方法ではどうしても研究者間のパワーバランスや人間関係などの影響を受けてしまいます。今回のCOEについては、何よりも研究としての体系性・合理性を優先したプランニングが行われたと思います」(坂神総長補佐)
 こうした措置は、若手研究者の研究意欲の向上に大きく貢献したようだ。今まではベテラン研究者がイニシアチブを取っていた研究プロジェクトなどにも、積極的に若手研究者が参加するようになったのだ。
 「若手研究者が独自の研究会やシンポジウムを立ち上げた学科もあると聞いています。COE採択に向けた議論が、学内の若手研究者の意識向上に大きな影響を与えていると思います」(坂神総長補佐)
 
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