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ゲノム創薬が医薬品の創製に革命をもたらす
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医薬品産業の約9割を占める医療用医薬品市場
 人々の健康に対するニーズは無限である。元気でありたい、長生きをしたいという思いは万人共通の願いだ。特に日本の医薬品市場はアメリカに次いで世界第2位であり、医療や薬に対するニーズは高い。かつ高齢化の一層の進行、生活習慣病の増加や若年齢化などもあり、医薬品に対する期待は膨らむ一方だ。こうした要望に医薬品産業が応えていくためには、どのような活動が求められるのだろうか。
 その点に言及する前に、まず日本の医薬品産業の現状に触れておく必要があるだろう。
 医薬品は大きく医療用医薬品と一般用医薬品(いわゆる大衆薬)に分類することができる。医療用医薬品は医師の処方箋により薬剤師が調剤して使用される薬で、一般用医薬品は消費者が薬局などで自由に購入して使用する薬である。一般消費者にとって馴染みが深いのは、テレビCMにも頻繁に登場する大衆薬の方であるが、市場規模で言うと全医薬品生産額の約88%が医療用医薬品なのである。つまり、医薬品産業の根幹を成しているのは医療用医薬品であり、この分野の市場動向が医薬品産業全体に大きな影響を及ぼす。
 だが現実には、政府の国民医療費抑制策により、医療用医薬品の公定価格である薬価(医療用医薬品の価格は厚生労働省によって定められている)が継続的に引き下げられているため、その分、生産額の伸びは抑えられる。医薬品市場を取り巻く環境は決して易しくはないのだ。


ヒトゲノムの解読がゲノム創薬に新たな道筋を示した
 ところが図1を見ると、医療用医薬品市場はここ10年間、若干の上下を繰り返しながらも拡大していることが分かる。
図1
継続的な薬価引き下げにもかかわらず、市場が拡大しているのはなぜなのだろうか。
 それは、取りも直さず製薬会社が新薬を開発し続けているためである。画期的な新薬には当然高い薬価が付く。つまり、新薬開発こそが、製薬会社にとっての生命線なのである。
 この新薬開発に劇的な変化をもたらす可能性を秘めているのがゲノム創薬だ。ゲノムとは、生物ごとに固有な全遺伝子情報のこと。2003年6月、ヒトゲノムの解読が終了し、ゲノム創薬に新たな道筋が立てられた。
 近年、多くの病気は遺伝子の異常や何らかの作用によって引き起こされることが分かってきている。例えば、細胞の増殖にかかわる遺伝子に何らかの異常が起こることでガンが発症したり、食欲抑制にかかわる遺伝子に異常が起こることで、肥満症や糖尿病を誘発したりすると言われている。そこで、遺伝子情報に基づいて病気の発生メカニズムを解明することで、効果的な新薬を開発することができるのではないか。これがゲノム創薬の基本的な考え方である。
 その意味で、ヒトゲノムの解読が終了したことは大きな前進と言える。ただし、それはあくまで遺伝子の配列、すなわち「人間の設計図」が解明されたにすぎない。ゲノム創薬を可能にするには、どの遺伝子がどのように変化することで病気が発生するのか、といった原因を一つひとつの病気について探っていく必要がある。そこで現在、解明されたヒトゲノム情報を基に、多くの製薬会社や研究機関で、各種病気の発生メカニズムの研究が進められているのである。
 
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