ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
徹底した導入期指導により学力下位層の引き上げを図る
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 掛川西高校が属する小笠地区は、県内で2番目に学区人口の少ない地域。同校は、人口19万人足らずの小規模学区にあって、毎年コンスタントに130名前後の現役国公立大合格者を出す地区有数の進学校である。
 そんな同校では2003年度入試において、194名の現役国公立大合格者が輩出(図1)。
図1
前年度合格者数を50人以上も上回る躍進である。センター試験の平均点が思うように伸びなかっただけに、教師一同はこの結果に歓喜すると同時に、予想外の驚きを覚えずにはいられなかった。
 しかし、進路課長の高木鋼一先生は、この躍進を決して「予想外」のこととは考えなかった。生徒たちの中に芽生えていた自信と、落ち着いて学習に取り組む雰囲気を感じ取っていたからだ。
 「本校は地方部に位置しており、昔から素直な生徒が多くいましたが、近年は生徒の気質も徐々に変化して、素直に教師の話を聞く生徒が減ってきていました。さらに切実な問題だったのは、小規模学区ということもあり、本校にはトップ層がいる代わりに下位層の生徒も多いことです。中には、受験直前だけ勉強して本校に滑り込んできた生徒もたくさんいます。そうした生徒の多くは、毎日勉強するという習慣はありません。テストの直前だけやっていればいいと思っているんですね。そういう生徒に、どれだけ学習に対する動機付けを与え、学習習慣を付けさせることができるか、ということが課題でした。そこで本校では、4年前から服装や頭髪など生活指導を強化することで落ち着いて学習ができる雰囲気をつくると共に、学習面では特に下位層を中心に生徒のモチベーションを上げるための取り組みを実施してきたのです。昨年度の躍進は、ここ数年実施してきた学習・生活両面に渡る指導が実を結んできた結果なのだと思います」(高木先生)


中でも同校が
重視したのが、1年次の導入期指導だった。学習習慣を付けさせるには「最初が肝心」というわけだ。とりわけ、入学直後の4月に実施する1泊2日の「集団宿泊研修」は、生徒たちを中学生から高校生に脱皮させるための取り組みとして位置付けられている。
 「集団宿泊研修」のねらいは、研修中に何度も実施される小テストを通して、高校で行う学習が質的にも量的にも中学校と違うことを体感させることにある。
 「英数国の基本的な学習方法や自習の仕方など学習スキルの向上を図ることも目的ではありますが、まず必要なのは生徒に学習習慣の重要性を認識させることです。本校では日常的にテストを行い、どれだけ力が付いたのかを随時確認しながら、3年間勉強しなければなりません。研修中に何度も小テストを実施することで、生徒たちに高校生としての自覚を持たせるのです」(高木先生)
 同校では20年以上前から、2週間に一度、数学・英語の小テストを実施している。教師から一方的に教わるのではなく、主体的に学ぶ習慣を身に付けなければ、3年間の高校生活を有意義に過ごすことはできない。長い高校生活の縮図が「集団宿泊研修」にあるのだ。
 また同研修では、単に教科の学習方法を身に付けるだけではなく、理解力や集中力を高める機会も設けられている。研修中に何度か行われる集会で教師が話した内容を、その場で生徒に文章としてまとめさせるのである。内容を吟味・咀嚼させることで、集中力や理解力を磨き、「学習力」を自ら伸ばしていくためのベースを養うのだ。教務主任の浅田尹先生はその意義を、次のように述べる。
 「教師の話を聞きっ放しにするのではなく、文章にまとめさせることで、生徒たちは話の内容を自分の中で消化し、聞く力や考える力、表現する力を養えると考えています。こうした取り組みは『集団宿泊研修』以降も頻繁に行われます。学年集会や講演、あるいはホームルームでの担任の話をまとめさせる。すぐに結果が出るものではありませんが、一つひとつの積み重ねが力になるのだと思います」
写真
集団宿泊研修は、毎年県営の「春野山の村」で実施される。HR研修や奉仕活動などが設けられており、退所式の際は生徒の感想発表も行われる。
 「集団宿泊研修」で学習習慣の重要性を認識させた後は、学習へのモチベーションを高めるための「学部学科ガイダンス」が待っている。1年次の7月、大学教員を招いて、大学で学ぶ学問分野について初歩的な解説を行うもので、2年次に行う文理選択の準備も兼ねている。直後の夏休みには、生徒たちはガイダンスをベースに「学部学科研究」を行い、夏休み明けにその成果を発表する。
 「研究をより深めるために、大学のオープンキャンパスに参加する生徒も多いんです。『学部学科ガイダンス』で進路観を醸成し、そこに『学部学科研究』を組み合わせることで、課題発見・解決力も身に付くのです」(高木先生)
 こうした進路観の育成は、その後、定期的に行われる「ミニ大学講座」へと引き継がれていく。年に5回、大学教員を招いて初歩的な講義を行うもので、03年度は「考古学」や「ジェンダー」「薬物問題」など幅広いテーマで実施された。「学部学科ガイダンス」「学部学科研究」を通して、ほとんどの生徒が大学で学べる学問分野のアウトラインをつかんでいる。そのため、自由参加の「ミニ大学講座」でも、生徒はやみくもに講座を選ぶのではなく、ある程度各人の興味や希望進路に沿った分野に絞って効率的に受講することができるのである。
 
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