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生徒に対する
地道な働き掛けだけではなく、教師自身が生徒指導に対する意識を向上させたことが、同校の躍進を支えた点も見逃せない。
「生徒に学習習慣を身に付けさせ、学習意欲を高めることはもちろん大切なことですが、日々の授業が質の高いものでなければ、生徒たちはついてきてはくれません。特に下位層の生徒はなおさらです。授業が分からなければ、生徒は面白いと感じるはずはありませんよね。分かりやすい授業、面白い授業を行うにはどうすればいいかを、すべての教師が考えたことも、03年度入試の躍進につながったのだと思います」(浅田先生)
下位層の生徒を引き上げるために分かる授業、面白い授業を展開しよう――。教師同士がチームワークを固め、一体となって授業改善に取り組んだのである。
こうした流れを生み出す牽引役になったのは英語科だった。ネイティブとチームティーチングを行う英語科では、円滑に授業を進めるために、打ち合わせをとりわけ密に行う必要がある。そのため、授業の進め方やテキストの選択、テストの範囲などについて、教師間でコンセンサスが取れるまで、徹底的に話し合った。熱心さが高じて時には「激論」になることもあったが、こうした英語科の話し合いの光景に刺激を受けて、他教科の教師も指導について、それまで以上に密に連絡を取り合うようになったのである。
「最近ではテストの作問についても、教師同士で切磋琢磨し合うようになりましたね。これまでは定期テストや小テストの類は、教師個人でつくってそれを回覧するくらいでしたが、同一教科の教師間で『この問題は簡単すぎる』『この問題はこういう観点で削ろう』など、設問の一つひとつについて真剣に吟味していく光景が見られるようになりました。話し合いの風土を定着させ、教師間のチームワークを強固にした点で、英語科は大きな役割を果たしたと思います」(浅田先生)
また、こうした流れを恒常的なものにするために、同校では1か月に及ぶ「授業公開」や、教師同士が本音で語り合う「トーク・トーク」と呼ばれる取り組みも行われている。いずれも、教師の意識を高めると同時に、指導改善に役立つアイディアを現場の教師から吸い上げることを狙ったものだ。
「授業公開」は、年1回、1か月に渡って同校の教師が他の教師の授業を自由に参観できるもので、参観後はカードに感想を書いて、授業を行った教師に直接手渡す。時には校長や教頭などの管理職も参観し、授業を行う教師に刺激を与えることもある。「トーク・トーク」は年齢やキャリアの垣根を越えて、教師同士が本音で語り合うもの。管理職から若手教師まで幅広い年齢層の教師により、不定期で年3~4回実施される。参加は自由だが、話し合いの中で出てきた意見や感想は、文章化されて全教師に配付されるため、不参加の教師も話し合いの内容を知ることができる。
「学校の指導で一番大切なのはチームワークです。皆が同じ目的で進まないと、どこかで行き詰まってしまいます。教師間でコンセンサスを取ると共に、こうした取り組みを通して、いろいろな意見や不満をどんどん吸い上げて、学校全体で考え方や方向性を共有していくことも重要だと思います。本校では、教師を対象に年度の総括を目的としたアンケートを実施していますが、その回答もすべて公開しています(
図2
)。情報はなるべく公開して教師間の足並みを揃えていこうというのが本校のスタンスです」(浅田先生)
導入期指導により、入学直後から学習習慣の確立、学習に対するモチベーション向上を図る一方、教師はチームワークを強固にして「面白い授業、分かりやすい授業」を展開する。生徒がやる気を出せば、教師もやる気になる。教師がやる気になれば、生徒はもっと積極的に学習に取り組むようになる。こうして生徒と教師が刺激し合うことで相乗効果が生み出されているのだ。
同校の取り組みに斬新さや奇抜さはない。だが「やるべきことを一つひとつ着実にやることが大切」と、浅田先生が強調するように、目の前の生徒に合わせた地道な試みが高い教育効果を生むことを、改めて確認できる取り組みと言える。
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