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選択自由度の高い講座制で自己責任と進路意識を高める
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細分化された
科目群から自分に合った科目を選択するには、生徒が自らの興味や適性、進路イメージをしっかりと持っている必要がある。
 「我々教師の役割の一つは、生徒の進路意識を高めることです。模試の判定や定期考査の結果だけで進路を考えるのではなく、教師自身が生徒一人ひとりの適性や興味、将来の志望などをきちんと把握した上での進路指導を行うことで、生徒は的確に科目選択ができるようになるのです」(新田副校長)
 同校では、長年に渡り幅広い層の生徒を指導してきたため、個々の生徒に応じた指導に抵抗感を感じる教師は少ない。79年に特進コースができたときも、担当の教師が自主的に朝補習や放課後指導を行い、生徒の学習を積極的にサポートした。すると他コースの教師も特進コースを見習って、放課後指導を行うようになり、補習の取り組みは次第に恒常化するようになったという。こうした教師たちの自主性を育んできた校内の文化が、より負担の大きい講座制を運営するための原動力になっているのである。
 そのため進路指導においても、一人ひとりの生徒に対して懇切丁寧な指導を心掛けている。特に力を入れているのは面談である。担任による面談だけではなく、進学指導部が直接面談を行うことも珍しくない。長い生徒では2~3時間に及ぶこともあるという。放課後指導などで忙しい担任に代わって、進学指導部が大学・短大の広報担当や専門学校の説明会から情報を収集。大学や短大の広報媒体から得られる内容以上の「生の情報」を入手する努力をしている。
 さらに、情報の量だけではなく質を上げていく努力も怠らない。例えば、○○大で学部が新設されたといった場合、定員が何名か、どういうことを学べるのかなどの情報だけではなく、なぜその学部が新設されたのか、どのような人材を求めているのかということまで把握し、それらの情報と各生徒の志望や能力、気質などを考慮して、クラス担任は面談等でアドバイスをしていくのである。
 「どの大学にどんな学部があるのか、難易度はどれくらいかなどといった進学に関する基本的な情報は、教室にあるパソコンを見れば生徒個人でも収集できます。自分の成績ならどの大学に合格できそうかといった判断は、生徒自身でつくわけですね。だからこそ生徒が考えた進路に対して、教師はそれ以上の情報を持ってアドバイスをする必要があるし、それで生徒の信頼を得ることもできるんです。加えて、こうした的確な進路指導の背景として、伝統的にきちんとした『生活指導』がなされていることも、大きな力になっているのです」(石黒先生)
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進路指導では「30歳になった自分を想像しなさい」という問い掛けを生徒に行っている。面談の内容は、大学の特性や指導ノウハウ、教授陣の豊富さ、研究内容の深さなどまで踏み込んでいく。


導入後、
5年が経過した講座制だが、その間、教師や生徒の要望に応じて、様々な改編が行われた。年度ごとにマイナーチェンジを重ねることも、同校の講座制の特徴と言える。
 例えば「自主選択講座」や「自主選択特別講座」は前年度に生徒から希望を募り、次年度に反映させるため、毎年、何らかの内容の変更がある。02年度の「自主選択講座」では、同校で出願の多い福岡大の推薦入試の科目だけに特化した講座を開講し、多くの学校が合格率を下げる中、同校は大きく合格率を伸ばした。さらに、今後は講座制の中で、各種の資格取得に対応した講座をつくることも検討中だという。
 また、毎年教師からも改善案が出てくる。「この講座はもう少し生徒の人数を絞った方がいい」とか、「教材を工夫すればもっと効果が出る」といった意見は、カリキュラム案として取り入れられ、次年度の改善へとつながっているのである。
 こうした講座制の内容の変化に伴い、徐々にではあるが、生徒の気質にも変化が現れてきていると石黒先生は指摘する。
 「模試の偏差値だけで志望校を決めようとする生徒が少なくなってきている印象があります。講座制により生徒の選択の幅が広がり、真剣に受講する科目を考えていく中で、生徒自身が具体的に将来の進路を考えるようになっていったのではないでしょうか。常に将来の進路について問い掛けていくことの大切さを感じますね。こうして呼び掛けることで生徒の意識が変わり、それが学習のモチベーション向上にもつながっていくのだと思います」
 
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