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学問の神様として知られる太宰府天満宮に程近い私立・筑陽学園高校。普通科、デザイン科、中高一貫科の3科からなる、約1700名の生徒数を擁するマンモス校だ。13~18歳までの幅広い年代の生徒それぞれが、勉強やデザインに打ち込み、一つのキャンパスの中で日々、互いに刺激し合っている。
そんな同校が教育理念として、絶えず生徒に投げ掛けている言葉がある。
それは「自由と自己責任」だ。コースや科目など生徒が自ら選択できる幅は広いが、常にそこには生徒自身の責任が伴う。自由には常に責任が伴うという社会のルールを、学習活動や行事など、様々な活動を通して体得していくのだ。
中でも講座制は、「自由と自己責任」を象徴する教育システムと言える。必修科目を中心に様々な選択科目を設け、生徒一人ひとりの進路や適性に合わせた自由度の高いカリキュラム編成が特徴である。
1998年、講座制導入に尽力した新田覚二郎副校長は、その背景について次のように述べる。
「新課程への移行を控えて、本校で最も大きなテーマとなったのが、週5日制への対応でした。保護者の方から授業料を頂いている以上、何としても授業時数は確保したい。ところが、年間の総授業時数を計算してみると、かなりの時数が減ることが分かりました。土曜日の休みを隔週にすると同時に、夏休みを早めに切り上げて8月の最終週から2学期を始めても、完全週6日制の時間数にはまだ足りないんですね。そこで、必修教科が少なくなる3年次のカリキュラムを、生徒一人ひとりの進路に合わせて自由に履修させることにしました。必要度の高い科目を選ばせることで、効率的な履修が可能になるのではないかと考えたのです」
同校の生徒は普通科だけでも、国公立大を目指す者、私立大を目指す者、専門学校で技能を高めようとする者など、目指す進路や学力層の幅が広い。そこで、同校では特別進学S、特別進学、進学の各クラスを設け、さらにその中に国公立大進学、私立大進学などのコースを設置し、生徒の進学希望に対応してきた。98年の改革では、さらに講座制を導入することで、無駄のない効率的なカリキュラム運営を目指したのである。
講座制導入に当たっては、同校は新田副校長を中心に、進学指導部と教務部の連携の下で構想が練られた。履修の形態、放課後の活用、選択科目の内容など、生徒のニーズに幅広く応えるための様々なシステムの可能性が模索された。
また、教師だけで話し合うのではなく、広く地域にも、改革の是非を問うた。私立といえども、同校の生徒の半数近くは地元出身。地域の声には常に耳を傾けるのが同校のポリシーだ。生徒・保護者に対するアンケートや、保護者で組織する後援会のクラス代表との話し合いを通じて、導入の是非や方向性を確認。そして98年、講座制が実施の運びとなったのである。
講座制の
カリキュラムは、
図1
に示した通りだ。学習のベースになるのはもちろんクラス単位で行う必修科目。選択科目は、クラスの枠を越えて履修できる「自主選択講座」が各年次に設けられている他、3年次には「必修選択科目」が設置されている。
「自主選択講座」は受験対応の科目群で、クラスやコース、進路に応じて、03年度は「国立文系数学」「私大英語」「理系数学/高看数学」「論述国語」などの科目が開講されている。必ずしも履修する必要はないため、必修科目の終わった放課後に設置されているが、選択した科目は修得単位数に加算される。「必修選択科目」は、生徒の目標や能力に合わせて必ず履修しなくてはならない科目群で、I~III類の枠がある。各類はさらに「基礎小論文」「ライティング」など受験を目指す生徒のための科目群、「国語常識」「英会話」など、教養を身に付けたい生徒のための科目群に細分化され、生徒は各類から1科目ずつ選択する。
また、現在は「総合的な学習の時間」の一環として「自主選択特別講座」も設置されている。隔週の土曜日を利用して年6~8回実施される講座で、大学教員や企業人など社会の第一線で活躍している人材を招いて、様々なテーマで講演を行う。個々の職業に対する興味を誘発するだけでなく、社会に出てプロとして働くとはどういうことかという、社会人に必要な意識を啓発することも狙っているのである。
科目選択において自由度が高いということは、裏を返せば、そこには生徒の自己責任が伴うということである。「実はここに講座制のもう一つの目的があるのです」と、進学指導部副部長の石黒文雅先生は言う。
「自由に科目を選択できるけれども、しっかりとした進路観を描ききれないまま科目を選択すれば、単位を落とすばかりか、自分にとって必要な学習の機会を逃すことにもなりかねません。社会に出たら、進むべき道は自分で見いだしていかなければなりませんし、当然そこには自己責任が生じます。社会人になってから必要な心構えを、高校段階から擬似体験させることも、講座制のねらいの一つなんです」
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