筑波大では、従来より一部の教育組織(学群・学類)の個別試験でリスニングテストを課してきた。この点は、これまで個別試験でリスニングテストを課していなかった東北大とは大きな違いと言える。しかし、同大のアドミッションセンター長を務める山根一秀教授は、「リスニングテストが導入された背景やねらいについては多くの教員が理解を示しているが、06年度入試で、リスニング重視の方向性が急激に強くなるようなことはまずないだろう」と言う。その背景には、何よりも「リスニングテストの中身が見えない」という現状がある。
「現在、各教育組織ごとに、それぞれが求める英語力の要件を踏まえて今後の入試の検討を進めています。リスニングテストについては、『コミュニケーション力を問う内容が出題される』という方針が示されていますが、実際には同じコミュニケーション力にも様々な捉え方があります。日常会話レベルでのコミュニケーション力という捉え方もありますし、学会で論文発表や質疑応答をする力と捉えることも可能です。概ね、前者が高校で求められる力、後者が大学で求められる力だと捉えられるでしょう。本学のような研究重視型の大学の場合、前者の力に加え、後者の力も問えるテストならば課したい、ということになりますが、まだ問題の中身が公表されたわけではありません。前向きに検討している教育組織も、こうした状況の中で思い切った決断をするのは難しいでしょう」
だが、その一方で、長期的なスパンで見た場合には、リスニングの位置付けを見直す教育組織も当然出てくるだろうと山根教授は示唆する。
「例えば、バイオロジーや自然科学、医学などの分野は日々国際的な競争にさらされているため、論文作成や研究過程のディスカッションなど、あらゆる場面で高い英語の運用能力が必要とされています。また、文系の国際交流が盛んな分野でも高度な英会話能力が必要です。これらの分野では、その基礎能力を備えた学生が欲しいというニーズが出てくるのは不思議ではありません」
06年度入試は、ある意味そうした長期的な展望に立った議論を始める上での試金石になると言えるだろう。
「03年秋に学内で行った予備調査の時点では、全体の約7割の教育組織がセンター試験でリスニングテストを課す方向で検討を進めています。ただし、本当に求める人材を選抜できるテストになるかどうかが現段階では分からないので、あくまでも検討の方向性として示している状態です。最終的な結論をまとめ、04年3月末までに大学から公式発表が行われると思います」
以上のように、両大学とも、リスニングについては「総論賛成」だが、出題内容及び難易度が不明のため、思い切った結論を出しにくい状態にある。しかし、各大学が入学者選抜の在り方を見直していこうとする中で、リスニングテストが一つの争点であることだけは間違いないようだ。
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