ベネッセ教育総合研究所
特集 自学自習力の育成
原田 隆史
Takashi Harada
はらだ・たかし
 1960年生まれ。奈良教育大卒業後、20年間、大阪市内の公立中学校で体育指導、生活指導に当たり、荒れた学校の立て直しに邁進する。現在は天理大講師を務めるかたわら、現役教師の勉強会「教師塾」を主催。企業の人材育成やプロスポーツ選手のメンタルトレーニングでも活躍している。著書は『カリスマ体育教師の常勝教育』(日経BP社)、『本気の教育でなければ子どもは変わらない』(旺文社)。
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態度教育と目標設定が「自立型人間」をつくる
生徒の自学自習力を伸ばす-。
現場の実践や教育心理学的な視点から、教師が生徒の「やる気」を引き出すために必要なノウハウ、理論とはどのようなものだろうか。2名の先生にお話をうかがった。
天理大人間学部講師
原田隆史


 関西に「カリスマ」と呼ばれる教師がいる。
 20年間、中学校教師として荒れた中学校を次々と立て直してきた「生活指導の神様」原田隆史先生だ。最後の勤務校となった大阪市立松虫中学校では陸上部の顧問として、7年間で13回の日本一を達成。その偉業は「松虫の奇跡」と讃えられた。心理学や企業の経営ノウハウを応用した生活指導で、生徒はどのように変わるのだろうか。


――先生は20年間、中学校教師として大阪市内の荒れた学校を立て直してこられました。そのお立場から見て、今教育に一番必要なのは、どのようなことだとお考えですか。
 この20年間で生徒やその家族、企業関係者など3万人以上の人々と接してきましたが、その中で、最大公約数として見えてきた教育課題が三つあります。
 一つ目は、生徒の心の弱さです。受験においても、プレッシャーに耐えられずに、試験当日会場に来ることさえできない者が増えています。教師として学習ノウハウを教えることはもちろん大切ですが、これからは学習指導で高めた力を、ある時点で100%出し切らせるための強い心をつくることが必要になります。
 二つ目は、生徒たちの態度です。現在、小中学校はもちろん大学においても、学生の指導に手を焼いています。授業中の私語や携帯電話、居眠り、遅刻。そういう生徒の態度に対しては、教師が大学で学んできた指導技術は全く役に立たないんですね。こうした状況を打開するために、真面目、素直、一生懸命に頑張る意識や態度を高める「態度教育」が必要です。私はこれを「心のコップを上向きにする」と言っています。まず、態度教育によって「心のコップを上向きにする」ことで、学習方法や教科の知識を吸収することができるようになるのです。
 三つ目は、今の生徒はすぐに「飽きる」という点です。最も大きな原因は、生徒が目的や目標に対して価値観を高められるような指導がなされていないことにあると思います。受験にしろスポーツにしろ、価値を認めることができないために、生徒の気持ちがふらふらしてしまう。自分の理想を体現・具現化する「生き方モデル」を見せる、もしくは例として話をして、目的・目標に対する価値観を高める必要があります。
――現在、学校現場では生徒の学びに対する主体性の欠如が、共通の課題になっています。
 生徒が主体性を持って物事に取り組むには、「自立」することが必要です。「自立」とは仕事(学び)の質とそれ以外の生活の質が共に高いレベルでセルフコントロールできている状態です。中学校教師時代、生活指導主事という立場から多くの生徒を見てきて分かったのは、生徒の問題行動の背景には、必ず学校以外の生活の部分に問題があるということでした。今の若い社会人もこれと同じで、仕事で成果が上がらない原因の多くは生活の質にあります。一方、小さいときから家庭で躾とか態度教育を受けて、真面目に一生懸命物事に取り組むことが大事だという価値観を身に付けている生徒ほど自立している。そういう生徒は、それほど手を掛けなくても教育の成果は上がります。だから、態度教育や価値観を育てる教育で「自立型人間」を育てる必要があるのです。


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