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Shinichi Ichikawa
いちかわ・しんいち
東京大大学院教育学研究科教授。日本教育心理学会理事長。中教審臨時委員。専攻は認知心理学、教育心理学。学習指導に認知心理学の成果を応用する研究として、小中学生向けの学習相談などにも取り組んでいる。「学ぶ意欲の心理学」(PHP新書)、「勉強法が変わる本」(岩波ジュニア新書)、「開かれた学びへの出発」(金子書房)、「学力低下論争」(ちくま新書)、「学ぶ意欲とスキルを育てる」(小学館)など著書多数。 |
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生徒の発達段階に応じた動機づけの手法を考える |
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学習意欲の発掘に向け、多くの学校では進路学習や、学問の楽しさを自覚させる取り組みを行っている。これらの手法は一定の成果を上げつつあるが、「手詰まり感」を感じる学校も少なくない。学習動機の2要因モデルの提唱で知られる市川伸一教授に、取り組みの今後の可能性についてうかがった。
――生徒の学習意欲を高めるにはどのような視点・考え方が必要なのか、「学習動機の2要因モデル」を踏まえて、整理をお願いします。
学習動機を考える際、これまでは内発・外発の二分法がよく用いられてきました。しかし、生徒の学習意欲は実際にはもっと複雑で、単純に二分できるようなものではありません。今以上に効果的な動機づけ手法を考えるためには、生徒がどんな動機で学習に向かっているのかをより正確に把握する必要があります。そこで私は「内発・外発」という従来の軸を、「学習の功利性」と「学習内容の重要性」という新たな二軸に分け、「学習動機の2要因モデル」として提案しました(図参照)。つまり、六つの学習動機を、学習目的と学習内容の関連性が高い「内容関与的動機(充実・訓練・実用)」と、その関連性が低い「内容分離的動機(関係・自尊・報酬)」に、改めて捉え直したわけです。 |
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――自らの将来から学問の必要性を実感させる、あるいは、学問の面白さをきっかけに生徒を学習に向かわせるといった高校現場のアプローチは、内容関与的動機づけに分類できそうですね。しかし、こうした方法をいくら試みても、うまく反応してくれない生徒もいると感じる先生方も少なくないようです。
内容関与的動機で学習し始めた生徒は、自ら学習方略を工夫したり、効率的な学習法を編み出したりと、高レベルの「学習者」になる可能性が高いと言えます。しかし、このようなアプローチは、生徒の発達段階がある程度の水準に達していないとなかなか効果を発揮しません。学問の面白さを感じられるだけの感受性や、自らの進路を真にリアルなこととして認識するのは、昨今の大学生にとってさえ容易なことではありません。また、中学校で自学自習に向かうような指導もあまり行われていませんから、「いきなり内容関与的な動機づけから入る」というアプローチでは、高校段階では一層厳しい面もあると思います。
そこで、生徒の発達段階によっては内容分離的動機づけを再評価する必要があると思うのです。私たちは研究の一環として、小中学生の学習相談室を開いているのですが、「学習意欲がない」と訴える子どもに対して、ストレートに内容関与的動機づけを試みてもあまり効果がありません。そこで私たちがよく用いるのが、友達や先生との「関係志向」を軸に、学習意欲を引き出す方法です。つまり、「友達も頑張っているから自分もやろう」「先生が楽しい人だから勉強してみよう」といった具合にやる気を引き出すわけですね。「とりあえず学習に向かわせる」という段階までは引き上げないといけませんから。
――そうした方法でまず学習に向かわせておいて、徐々に内容関与的な動機づけに転換させていくのが、高校現場で求められるアプローチと言えそうですね。
はい。内容分離的動機による学習は、とりえあえず机に向かうところまではいっても、自分で学習方法を工夫したり、得られた学習成果を他の分野に応用したりといった方向に向かうとは限らないのです。「自律的な学習力」を育てるのなら、どこかで内容関与的動機づけに転換していく必要があるでしょうね。特に重要なのは、自分が学習したことの意義を自覚できる能力を身に付けさせることだと思います。内容分離的動機で学習している生徒の多くは、例えば数学の図形問題を解いたとしても、単に「問題ができた/できなかった」以上の教訓を引き出せません。ですから、具体的な指導としては、「問題が解けたのは、考え方を図示したからではないか」とか「図に描いてみるという発想は他の問題でも使えないか」といったアドバイスを与え、教訓の引き出し方を伝えていくことになるでしょう。そうすれば、知識を応用することや、新たな概念を習得することの楽しさを、徐々に生徒がつかんでいけると思います。 |
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