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(財)先端医療振興財団理事長・京都大名誉教授
井村 裕夫
Imura Hiroo
1931年滋賀県生まれ。京都大大学院医学研究科博士課程修了。神戸大教授、京都大教授、京都大総長等を経て現職。現在、神戸医療産業都市構想研究会会長などを兼務。 |
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Special Featuer
識者に聞く「薬学教育改革の意義と課題」 |
(財)先端医療振興財団理事長・京都大名誉教授
井村裕夫 |
道半ばの薬学教育改革。その意義と課題について、中央教育審議会大学分科会臨時委員として薬学教育改革の審議にも参加した井村裕夫名誉教授にご意見を頂いた。 |
臨床薬学が重視されるようになってきた |
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これまで日本の薬学部では、化学物質としての薬の成分や合成法を研究し、新薬の開発へとつなげる創薬科学の分野の教育研究が主流でした。ところが、ここ10~15年の間に、臨床薬学の必要性が叫ばれるようになりました。臨床薬学とは、薬が患者の体内に入ったときに、どのように代謝され体に作用するのか、そのメカニズムを分析し、患者に対して適切な薬物治療の方法を探る学問。つまり非常に医療の現場に近い実践的な分野なのですね。
背景には、抗がん剤など、高い効果が期待される反面、一歩使い方を間違えると重い副作用を伴う医薬品が増えてきたことが挙げられます。個々の患者の病状や体質を診ながら、最も効果的でかつ副作用が現れにくい薬物を選択するという高度な医療判断が必要とされる時代になったのです。
医療現場において今後、薬剤師に求められるのは、医師が選択した薬物治療に間違いがないかチェックし、患者を指導する役割です。しかし現状では薬害事故が多発しており、薬剤師がその責務を果たしているとは言えない面があります(もちろん医師の責任も大きいのですが)。今回、薬剤師養成のための修業年限を4年から6年へと延長するという大規模な薬学教育改革が行われることになったのも、薬剤師の知識や技能をさらに向上させたいという狙いがあるからです。 |
薬学教育全体のグランドデザインを |
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その一方、研究者を主に養成している大学に配慮して、4年制学部の併存も認められました。6年制学部で医療の現場のニーズに即した人材を育成し、4年制学部で日本の生命科学の一翼を担う基礎薬学や創薬科学関連の教育研究を行っていく。分かりにくいという指摘もありますが、多様な人材を育成するために、多様なコースを設定するのは重要なことだと思います。
この件に関しては、文部科学省と厚生労働省との間で綱引きが演じられましたね。多様性を担保したい文部科学省に対して、厚生労働省は6年制学部で一本化したかった。結局は厚生労働省が折れた形ですが、4年制学部生の薬剤師国家試験受験資格の認定方法や、6年制と4年制の進路変更の方法など、解決すべき課題は山積みです。こうした問題からも分かるように、本来は、学部と大学院の関係や育成したい人材像など薬学教育全体のグランドデザインについて、事前に議論を重ねる必要があったのではないかと思います。
さらに各大学も、研究者養成に力点を置くのか薬剤師養成を主眼とするのか、そのためにどのようなカリキュラムを策定するのか自校の方向性をはっきりと打ち出す必要があります。受験生が安心して進路選択できるような制度設計を早急に行うべきでしょう。 |
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