ベネッセ教育総合研究所
特集 学校組織の機能活性化
船戸秀道
ベネッセコーポレーション
進研ゼミ高校講座顧問
元群馬県立高崎高校
進路指導部長
船戸秀道
Funato Hidemichi
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特集1 学校組織の機能活性化
組織力の向上を図る3つのポイント

学校現場におけるどのような取り組みであっても、取り組みの実践を組織的に行う視点は欠かせない。
本稿では、現場から寄せられる声を基に、学校の組織的な実践を硬直化させず、
ブラッシュアップさせながら推進していくための視点や手法を考察したい。
弊社進研ゼミ高校講座顧問・船戸秀道が整理する。


 生徒育成に向けた取り組みを実践し、継続的・安定的に成果を上げるには、教師個人ではなく学校の組織的実践が重要だ。しかし多くの教師は、組織的な実践を推進する中で様々な課題に直面している。そうした教師の声を集約すると、次の3点に整理できそうだ。
(1)合意形成ができず、目標・課題が共有できない。
(2)具体的な実行計画に落とせず、取り組みを実行に移せない。
(3)PDCAサイクルが機能せず、取り組みの質が向上しない。
 これらは、高校現場が潜在的に抱える共通の課題と言えるだろう。組織的な指導体制を推進する学校でも、時間の経過に伴い取り組みが形骸化・硬直化する場合がある。
 こうした課題を解決するには、どのような視点が必要なのか。高校現場から寄せられる声を基に、前記3点に沿って整理したい。
1 合意形成の壁(目標・課題の共有)
客観的データで課題を顕在化・焦点化する
 新しい取り組みに着手する場合、「合意形成の壁」にぶつかる学校は少なくない。例えば、総合学習を全校体制でスタートさせる際、推進チームが設置されることが多いが、合意形成に成功するのは容易ではないようだ。
 こうした課題をクリアするための手法のひとつが、「客観データによる課題の焦点化」である。例えば、個々の生徒の実証データから多くの教師が漠然と感じている課題を明示し、それを学校全体で考える必要があるのではないか、という視点提供・説得方法を取りたい。その際、生徒を多面的に把握するための定量・定性データに基づく説得が必要となる。学力向上に向けた取り組みを提案する場合であれば、学年全体の学力の傾向を示すデータや具体的な補強教科・分野を検討するデータをはじめ、生徒の学習実態を多面的に把握するデータ、指導実態やその評価を検証する教師、生徒アンケートなどを用意し、提案に説得力を持たせられるかどうかが鍵となる。推進チームに求められるのは、客観的な裏付けに基づいて、校内の潜在的な課題を顕在化できるかどうか、更には会議等で建設的な議論に導くために、どこまで課題を焦点化できるかなのである。
 
仮説に基づきデータを分析する
 現場から寄せられる声に、「データの集約はするが、実践レベルまで落ちないのが実情」というものがある。こうした課題には、「仮説検証型のデータ分析」が考えられる。まず、多くの教師が潜在的に持つ課題認識を踏まえ、解決に向けた「仮説」を立てることが重要である。その上で収集データを見ると分析がしやすい。この観点が弱い場合、データの収集・整理に終始し、観念的な議論となり、具体的な実践計画に踏み込めなくなる。
 例えば、「1年後半からの学力の伸び悩み」という課題認識がある場合を考えてみよう。まず、これまでの指導状況や生徒の実態を振り返り、「家庭学習習慣が中間考査前までに定着していない(課題)」のは、「各教科の課題量や出し方に原因があるのでは(対策を導く仮説)」と想定するのだ。こうした仮説を持つことで、各教科の課題量や頻度、家庭学習の状況、基礎学力の定着度、部活動の状況など複眼的なリサーチから仮説を検証する目が養われるのである。学力結果から分析するだけでは、解決の見通しは立ちにくい。次に、多面的なデータ分析から、「教科間の課題量の調整不足で生徒が消化不良を起こしている」「部活動時間の遅延が家庭学習時間を圧迫している」などの検証ができれば、具体的な対策を導きやすくなるだろう。
 重要なのは、「潜在的な課題認識を対策に結び付けるデータ分析」だ。常に仮説を起点にしたデータ分析に基づく論証を心掛け、校内提案の説得力を高めたい。
 
教師の参加意識を向上させる
 現場では、「個々に意見を持っているが会議で発言する教員は限られる」「会議運営を工夫するが議論の共有化が図れない」ことに悩む学年主任や分掌の主任は多いようだ。個々の教師の参加意識の温度差は、合意形成を大きく左右する。
こうした課題に対しては、取り組みの推進担当と一般教師との意識のギャップを埋める手法を工夫する必要があるだろう。例えば、会議で議論の活発化を図るために、職員室内で日常的に課題を共有できるよう、事前に推進担当から現状分析の資料を担任団に配付しておくなどは有効である。会議の場では推進者が率先して、発言自体を評価するなど意見が出やすい雰囲気を醸成するなども効果的だ。
 なお、合意形成期においては、管理職や学年主任がどれだけリーダーシップと先見性を発揮できるかが求められる。実践の狙いとその先にある見通し(期待効果)を全教員に共有できてこそ、一般教員の納得感が生まれ、具体的な指導計画の立案に踏み込めるのである。


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