総合問題・小論文の要求学力 |
「総合・小論は後期入試」は過去のもの |
|
現在大学入試の教科・科目別試験以外の出題タイトルが付けられている試験のうち、小論文は78%、総合問題が15%、論文・論述が5%などとなっている(図7)。 |
|
これを試験日程別に見ると、全試験数842件のうち、前期実施のものが32.5%で後期実施のものが67.1%である。既に総合問題・小論文は後期試験のものというわけにはいかなくなっていることが分かる(図8)。 |
|
高い問題が合計で49%あり、残りの51%が教科とは直接関連しない小論文ということになる(図9)。 |
|
ではその内容を学部系統別に見てみよう。 |
(1)文科系 ----------------------------------------------- |
代表的な文科系学部の中で出題大問数が最も多いのは文学部で100大問を超える。内容自体はあまり特別な対策を必要としない問題が多く、世界史・日本史の知識が必要であってもセンター試験レベルで十分であり、英語素材の時事問題も授業で扱われる範囲のものが多い。見方を変えれば、東京大文III後期の問題でも、比較的対策は立てやすいということかも知れない。
これに対して社会科学系学部の法学部・経済系学部は出題数こそ法学部35大問、経済系55大問と少ないが、内容は専門的である。法学部は法学や政治学の論文素材が頻出で、自分の考えを論理的に記述させる問題が多い。経済系学部は経済論文を素材として、内閣府・厚生労働省・総務省などの官庁統計資料など資料活用問題が多い。いずれも高校の授業で扱う範囲を越えたものが多いため、こうした素材に触れているかどうかで差が出る。特に経済系学部では、素材が英語の論文だったり、経済数学に関連する設問が含まれるものもあり、一般に他の文科系学部よりも難しい問題が多い。 |
(2)教員養成系 -------------------------------------------- |
教員養成系学部は総合問題・小論文の出題数が500大問以上と他学部に比べて圧倒的に多く、現在も増え続けている。中でも教員としての資質や適性を見るために自分の考えを書かせるタイプの問題や、あるテーマを与えて、それを解決する際に必要な教科の知識を活用するタイプの問題が多い。既に一部の教員養成系大学では、個別学力試験のほとんどを総合問題・小論文と面接にしているところもある。
|
(3)理科系 ----------------------------------------------- |
ここでは医学部と理工系について述べる。
まず医学部だが、問題には主に二つの特徴がある。一つはテーマが大学で学ぶ生命科学領域の問題が多く、高校で履修する科目としては生物を中心に、化学や一部物理との関連がある問題が目立つということ、もう一つは生命の尊厳や死生観について、(1)で述べた法学部と同様に自分の考えを論理的に記述する力が問われるということである。また歯学部・薬学部も同様だが、素材文も英語のものが多く、全体の3分の1強に上る。素材に引用される文献は『ネイチャー』や『ランセット』(※4)など一部に偏る傾向があるため、医学部志望者ならば、これらの雑誌に目を通しておきたい。 |
※4 『ランセット』『ネイチャー』:共に世界的に権威のある学術雑誌で、『ランセット』はイギリスの医学誌、『ネイチャー』は科学誌。ランセットは英語で、手術のときに使用する「メス」という意味がある。 |
一方、理工系は論文タイプの問題よりも、大学で学ぶ基礎的内容につながる教科関連事項を問うものが多い。中でも理学部は実験計画を立てさせる問題、工学部では物理と数学や情報Cの教科横断型の出題があるため注意を要する。特に後者は、微分方程式・最小2乗法・合同式など、高校では扱わない領域も含まれており(微分方程式は現3年生までは教科書で扱われている)、問題文中にきちんとした説明はあるものの、初見では戸惑うかも知れない。
90年代はまだ出題意図が明確でないものも多かった総合問題や小論文も、近年は学部系統ごとにそれがはっきりしてきており、高校生が総合問題や小論文の入試問題に触れて興味を持ったり視野を広げたりすることができるような良問も多く見られるようになった。だが一部の経済系学部や理工系学部の問題では、大学学部で学ぶ専門基礎につながる問題といっても、あまりに「大学で学ぶ内容そのもの」が出題されているものもあり、中等教育との接続の段階であるという視点が薄い出題があることも事実だ。 |