――上田さんはラグビーの選手、監督として数々の実績をお持ちですが、その経験から部活動の意義はどのようなところにあるとお考えですか。
一つは、社会に出てから求められる様々な力を身に付けられることだと思います。中でも、リーダーとしての資質を身に付けていく意義は大きいですね。これまでの日本社会は年功序列が基本でしたが、これからは実力主義がどんどん進みます。部下や後輩に対するリーダーシップばかりでなく、同僚や時には先輩、上司に対してもリーダーシップを発揮しなくてはならない場面もあるでしょう。そこで結果を出せるかどうかは、部活動での経験が重要になってくると思います。
例えば、慶應のラグビー部には現在約120名の部員がいるのですが、レギュラー以外の11名の部員にコーチの資格を取らせて、附属の中学校や高校で指導をさせています。指導現場では中学生や高校生だけでなく、監督に対するコーチングも必要ですから、目上の人に対するリーダーシップも身に付けられますし、コーチを務める部員に指導結果の報告をさせることで、文書の書き方や報告書の作成方法も覚えられます。彼らにとっては良い社会勉強になっていますね。
――レギュラー以外の部員にも、何らかの役割を与えることが大切なんですね。
運動系の部活動では、レギュラーになることだけがすべてではありません。レギュラーになれなかったのなら、「じゃあ、自分はチームのために何ができるだろうか」ということを考えることが大切なんです。ですから、慶應ラグビー部では、練習用具やグラウンドを管理する仕事や部の公式ホームページを運営する仕事など、すべての部員に何らかの役割を与えて、チームのために何ができるのかを考えさせるようにしています。
もちろん、これは運動系に限ったことではなく、文化系の部活動についても言えることだと思います。例えば、吹奏楽部でも演奏会があれば、来場者の受付や音響のチェック、時には会場使用料の交渉などを部員が行うこともあるかも知れません。その中で生徒たちがつかむものもあるのではないでしょうか。
――企業の中で、社員に与えられる役割にも通じるものがありますね。
そうですね。例えば、第一志望の企業に就職できたとしても、本人の希望通りの部署に配属されるとは限りません。例えば、テレビ番組をつくりたいと思ってフジテレビに入社しても、番組制作とは直接関係のない経理に配属されることもあるわけです。そういうときこそ、与えられた環境の中でいかに自分の仕事を遂行するか、会社のために何ができるのかを考え、行動できるかどうかが大切なんです。
その際、監督や上司は部員、部下の努力をしっかりと見て、評価してあげることが重要です。そうすることで、すべての人間がチームの一員であるという意識を持たせられるのだと思います。
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