――会社に対する考え方が多様化してきています。会社で働くことの意識は、どのように変わってきているのでしょうか。
一番大きな変化は、個人サイドから「自分のキャリアは自分でつくる」という意識が出てきたことです。いろいろな統計を見てみると、新入社員の7割が「いずれ会社をかわる可能性がある」という意識を持っているようです。これは良い悪いの問題ではなく、そういう状況になってきているということでしょう。それならば前向きに考えて、自分のキャリアをどうやってつくっていくかというビジョンを、できるだけ早い段階から持っていた方がいいですね。
もう一つは、個人と組織の関係の変化です。日本の企業は、親子のような信頼関係で結ばれていて、そこから離れることは裏切りだというような、昔ながらの帰属意識は組織に対しては変化していますが、同僚や部下に対しては、まだ残っているようです。これからは、組織に対しては「信頼」関係というより、「契約」関係になっていくと思います。
ちょっと興味深い話があるのですが、最近では、日本や外国の大学が日本でMBA取得のプログラムを提供していますよね。その先生方に聞いたのですが、プログラムに通っていることを会社に隠している社会人の学生が多いそうです。土日のプログラムですから、休みの時間をどう使おうと自由なはずなのに、仕事以外のことをしているのを上司に知られたくないようです。
――確かに日本では、まだそういった信頼関係で結び付いている会社が多いようですね。契約関係というのは、具体的にはどのような関係ですか。
私は、一つの会社に一生いることが悪いことだとは思っていません。その人が自分のキャリアに満足していて、会社もその人が会社に貢献をしてくれているというように、互いに満足していれば、それは幸せなことです。問題なのは、会社が社員を便利に使ってしまい、個人のキャリア形成ができていない場合です。そして、会社側からやっぱり要らないと言われて外に出たら、既に市場価値がなかったというのは、一番避けるべきケースだと思います。今の日本がまさにその状態なのですが、企業は組織の責任として、社員の自立したキャリアを築く手助けをする必要があると思います。
最初の頃は企業が個人を育て、それに対して個人は投資してもらった分を会社に返すという意識が必要です。企業活動では、投資をしたら当然リターンを期待しますね。それと同じです。もし企業が面倒をみてくれないのであれば、個人は自分のキャリアを自分自身でつくっていかなくてはなりません。つまり互いに関係がある間は、約束したことを成し遂げることが契約の基本なので、双方に甘えがあってはいけません。そういう契約の意識を持って、自分が会社にいる間に、いろんなことを学んで吸収していくのが、個人の責任だと思います。
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