岩手県立大学長
西澤潤一
NISHIZAWA JUN-ICHI
にしざわじゅんいち◎1926年仙台市生まれ。東北大工学部電気工学科卒。東北大電気通信研究所所長、東北大総長など経て現職。2005年4月に開学予定の首都大学東京の学長に着任予定。1983年に電子工学分野のノーベル賞とも言われるジャック・A・モートン賞、1989年に文化勲章、2000年にIEEEエジソンメダル、2002年に勲一等瑞宝章受章。IEEEジュンイチ・ニシザワメダルが制定(永久)。「ミスター半導体」「光通信の父」とも呼ばれ、技術立国日本を牽引した科学者の1人。
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第1章 SSH Special Interview
理数教育の展望
3年目を迎えたSSHのこれからをどう考えるべきだろうか
科学技術・理数分野に関わる教育を重点的に行うSSH(スーパーサイエンスハイスクール)事業がスタートして3年が経とうとしている。教育課程の大幅な弾力化を認め、高校の内外を巻き込んだ既存の枠組みにとらわれない教育活動が展開された。この取り組みを、今後の理数教育の在り方を考えるヒントを与えてくれるものだと見る者は少なくない。3か年を経たSSHが指し示すものは何か、教育はどう変わろうとしているのか、3人の識者に聞いた。
SSH スペシャル インタビュー 1st viewpoint
大学からのメッセージ
生活の中での疑問、興味から創造する力を育てる
現代の若者に必要な「知」とは何か。そして、若者たちの中でいかにして「知」は、確かな「力」として育まれ、社会へ還元されていくのか。「学び」という行為の今日的な定義とSSHの存在意義について、我が国屈指の科学者であり、教育者として数多くの研究者、技術者を育てた西澤潤一氏に聞いた。
高校までの教育に「考える」機会が失われている
―高校の教育において生徒の理数離れが深刻と言われています。文部科学省が「スーパーサイエンスハイスクール(以下SSH)」を02年度からスタートさせ、科学技術・理科・数学教育を重点的に学ぶ指定校を設置しているのも、現状の打開策の一つと言えます。このような動きについてどのように思われますか。
西澤
高校はもちろんですが、小学校や中学校の段階で、理数系科目を面白いと思わない子どもが増えています。この背景の一つとして、やはり理数教育が「暗記」偏重になっている点を挙げざるを得ません。もちろん、理数系科目を学ぶ上で暗記は欠かせません。しかし、理科や数学を「暗記科目」と位置付けることで、子どもたちは法則や公式の本質的な意味を関連付けて考えることができなくなっています。授業も実験や観察を軽んじたものになってしまい、その結果、子どもたちが「発見」や「探究」といった、理数本来の学問的な面白さを感じる機会が少なくなっているようです。これでは、理数嫌いが増えてくるのも仕方ありません。この状況を変えていこうという動きが世の中から出てきて、文部科学省がそれを真摯に受け止め、SSHを始めたことは、評価できると思います。
―教育において「暗記」が主流であることには、どのような弊害があるのでしょうか。
西澤
頭に入れた知識をベースにそれぞれがどう結び付くのか、ヒントがないか「考える」ことで、個別の「知識」がネットワーク化されていくのが「学問」です。ところが今の高校までの学校教育では「考える」機会が著しく減っているために、知識をネットワーク化する訓練ができないまま、大学へ入ってくるのです。同様に、パソコンやインターネットを使ったバーチャルな授業、eラーニングなどにも注意が必要です。というのも、「問題」と「解答」の間にある「なぜ、そうなるのか」という過程が見えにくいため、「勉強イコール暗記」を促進する危険性をはらんでいるように思えるからです。「なぜ」を考えることができない学生は、大学でも教科書通りにしか実験を進められず、教科書と違う結果が出たら教科書の方を信じてしまう。これでは新しい発見には出合えません。このようなことにならないためにも、オーソドックスですが、身近な疑問や興味から端を発する体験型、探究型の授業が望まれていると思います。
―ゆとり教育により理系の授業数が大幅に減る中で、大学入試への対応も求められるとなると、先生がおっしゃるような授業は実際には難しいのが現状です。高校側には、入試とリンクしない限りSSHの試みも先細りになるのではと危惧する声も出ています。
西澤
確かに、高校だけが変わっても意味がありません。大学も変わらなければならないし、小・中学校も変わる必要があるでしょう。そのためにも理数教育のグランドデザインが必要なのです。
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