大学改革の行方 教育の充実に動き出した大学院

山崎 秀保

▲前・文部科学省高等教育局主任大学改革官
現・文化庁文化財部記念物課長

山崎 秀保

Yamazaki Hideyasu

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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大学改革の行方
教育の充実に動き出した大学院

学部段階における教育改革が進む中、大学院においても教育の充実を図る動きが出てきた。その背景には「徒弟制的」な従来の大学院教育への反省と、就学者数の急増という構造的な問題がある。今号では、05年9月の中教審答申「新時代の大学院教育―国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて―」の内容と、大学院の実践事例を通して、大学院における教育改革の実態をレポートする。

総論 「大学院教育の実質化」を目指して

量的・制度的拡充を続ける大学院

 1987年の大学審議会の発足以降、大学院を含めた大学の教育研究の高度化・個性化・活性化を図るため、今日までさまざまな改革が進められてきた。
  大学審議会は、入学資格や修業年限等の大学院制度の弾力化について提言した88年の答申を皮切りに、学位制度の見直しや大学院の評価、大学院の整備充実や量的整備などについて累次の答申を行った。その後、大学審議会の検討は、再編された中央教育審議会(以下、中教審)に引き継がれ、02年の「大学院における高度専門職業人養成について」の答申などが行われてきた。こうした流れの中で、一連の大学院改革の方向性が示されてきたのである。
  その結果、大学院大学や通信制大学院等の新しいタイプの大学院の設置、入学資格・修業年限・学位などの制度の見直し、大学院の評価、専門職大学院制度の創設などの施策が次々と実施された()。

▼図 クリックすると拡大します
図

  一連の改革により、大学院の量的・制度的な拡充が大きく進んだことは、種々のデータからもうかがえる。図1は、1985年から2005年までの大学院入学者数及び大学院進学率の推移を示したものだ。この間、修士・博士両課程を合わせた入学者は2万9471名から9万5141名へ、進学率も修士課程は6.32%から14.08%に、博士課程は1.59%から3.22%に増加している。

▼図1 クリックすると拡大します
図1

  合わせて、社会人や留学生などの入学者数も増加の一途をたどっており、社会人はここ10年間で約2.5倍、留学生は約1.6倍にまで増えている(図2)。また、博士学位授与数も91年度に1万885名だったものが、02年度には1万6314名まで増加した(図3)。

図2
図3

  これに応じて、日本の大学院の研究ポテンシャルも、世界的に相応のプレゼンスを有するまでになってきた。図4は、論文数と論文被引用回数の世界シェアを示したものだ。論文数は10.3%と世界2位、被引用回数は4位。物理学で東京大が、材料科学で東北大が世界1位であるというように、個々の大学レベルでも世界トップレベルの研究成果を上げている。

図4

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