大学改革の行方 教育の充実に動き出した大学院
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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教育の組織的展開が今後の大学院の課題

 量的・制度的な拡充を続ける大学院だが、それに伴って、課題も浮き彫りになってきた。それは大学院における「教育」の組織的展開の弱さである。
  従来から、教育面における組織的展開の弱さは、つとに指摘されているところだが、それは日本の大学院の伝統的な教育・研究指導の方法に起因すると言ってよいだろう。日本の大学院では、学生の教育が、それぞれの研究室の担当教員による個人的な指導に過度に依存する、いわゆる「徒弟制」的な教育・研究の方法が取られてきた。しかし、この方法では、個々の教員の指導力に依拠せざるを得ないため、場合によっては専門分野のみの閉鎖的な教育にとどまりがちだ。日本の大学院において組織的・計画的な教育ができにくい最大の理由がここにある。
  だが、大学院の「教育」がクローズアップされる理由はそれだけではない。大学院進学者数の急速な拡大が、従来の大学院教育の在り方に修正を促しているのだ。前・文部科学省高等教育局主任大学改革官の山崎秀保氏は、次のように述べる。
  「従来の『徒弟制』的な教育も、フェイス・トゥ・フェイスで学生が教員との人間関係を構築していくという面では、一概に否定できないことも確かです。しかし、ここ20年の間に、大学院を巡る環境は大きく変わってきました。大学院進学者数が大幅に増加した上、社会人や留学生など多様な人材が数多く入学しています。このような『大学院の大衆化』が進む中で、個々の教員による指導に依存していたのでは、どうしても限界があります。修士・博士課程における教育課程の組織的展開を強化していくことが極めて重要になっているのです」
  また、従来の研究者像とは一線を画した、新たな研究者像を確立する上でも、大学院教育の組織的展開は欠かせない。21世紀は新しい知識・情報・技術が、政治・経済・文化などのあらゆる領域で重要性を増す「知識基盤社会」の時代であると言われる。そうした「知識基盤社会」に求められるのは、狭い範囲の研究領域のみならず、幅広く高度な知識・能力が身に付く体系的な教育だ。
  研究者もこれまでのように特定分野に特化した研究を行い、論文を作成し学会で発表するだけではなく、社会の変化やニーズに応えられる能力が必要になる。修士課程はもちろん、博士課程の修了者にあっても、従来の大学教員や企業・研究機関の研究員だけでなく、企業経営やジャーナリズム、行政機関、国際機関など、社会のさまざまな場面でリーダーシップを発揮できる力が必要になりつつあるのだ。


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