こうした課題を踏まえて、我が国の大学院教育の将来を占う上で大きな意味を持つ指針が中教審より示された。05年9月に出された中教審答申「新時代の大学院教育│国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて│」である。
同答申のポイントは、(1)大学院教育の実質化、(2)国際的な通用性・信頼性の向上の2点を図ること。中でも、最重要項目は「大学院教育の実質化」に向けた教育課程の組織的展開の強化だ。これまで「研究」に偏りがちだった大学院における「教育」機能の強化を図ることを前面に押し出したのである。
もっとも、「大学院教育の実質化」を図るには、「大学教員に『課程制大学院制度』の趣旨を理解してもらうことが前提」と、山崎氏は述べる。
現行の大学院は学校教育法によって、一定の教育目標、修業年限及び教育課程を有し、学生に対する体系的な教育を提供する場として位置付けられている。そのような教育目標、修業年限及び課程を有し、当該課程を修了した者に学位を与えることを基本とする大学院制度のことを「課程制大学院制度」と呼ぶ。
一見、当たり前のことのように思われるかも知れないが、こうした制度的位置付けに対する考え方が、大学教員の間には意外と浸透していないと、山崎氏は指摘する。
「徒弟制的な研究指導が行われるのは、課程制大学院制度の本来の趣旨が十分に理解されていないからだと思います。学生にとって教員の実験をサポートしたり、リサーチアシスタント(※1)として研究プロジェクトに参加することは、教育の上でも大切なことですが、大学院生はあくまで学生です。大学院は教育機関であり、そのための教育の組織的な展開が必要であるということを教員に理解していただくことが、同答申の最大の眼目なのです」
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