大学改革の行方 教育の充実に動き出した大学院
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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市民との対話を重視した教育プロジェクト

 こうした課題認識を踏まえ、大阪大ではどのような教育を展開しているのだろうか。具体的な内容を見る前に、まず大阪大がどのような力の育成を目指しているのかを確認しておきたい。それは「教養」「デザイン力」「国際性」の三つだ。「教養」は社会人として必要な幅広い視野。「デザイン力」は異なる領域の研究者と研究プロジェクトを立ち上げる、あるいは研究体制をデザインする能力だ。「国際性」は、異なる文化を持つ人とコミュニケーションが取れる力である。
  「今回、『魅力ある大学院教育』イニシアティブに採択された取り組みも、本学の育成したい力に合致したものが多かったですね。人社系の三つは、人文科学を社会で生かすための方法論を身に付けるための取り組みです。理工農系の『インタラクティブ大学院教育』や『学習コミュニティに基盤を置く大学院教育』は、化学と生物など異分野の学生同士がチームを作って、異領域との対話を行うもの。各部局が大学の教育方針を意識して、プログラムを作ってくれたところが、『魅力ある~』の審査員から評価されたのだと思います」(鷲田教授)
  これら三つの力を育成する鍵を握るのが、05年4月に開設したコミュニケーションデザイン・センター(CSCD)だ。講義や対話ワークショップを通して、異文化・異分野とのコミュニケーション能力の涵養はもちろん、職業倫理や教養を身に付ける教育プログラムを企画・実施する。開設に先立ち、科学から芸術に至るまでの幅広い分野から著名人が専任教員として招聘され、学内からの移籍を合わせて現在、約30名の教員が同センターにおいて全学教育に当たっている。
  同センターの最大の特徴は、こうした異分野の教員が共同で複数のプロジェクトを構成する点にある。プロジェクトは「科学技術」「減災」「臨床」「アート」の四つを中心として、各プロジェクトを横断する「支援プログラム」「横断プロジェクト」が支えるシステムだ(図2)。そして、各プロジェクトが得意とする授業内容を大学院全学共通科目の「コミュニケーションデザイン講座」として開設していくのが、同センターの当面の目標だ。


図2

  もっとも、講座として本格的に開設するのは06年度からだが、05年度の試行期間において、既に一定の成果を上げつつあるという。
  「『科学技術コミュニケーション演習』では、医学、工学、文学、法学の各研究科の院生が集まり、5日間かけてBSE(牛海綿状脳症)について議論しました。同じBSEについての議論をしているにもかかわらず、学問分野が違うだけで、議論の中身も発想も全く違う。そのことに皆愕然としている様子でしたね。専門知識を持っている人間が集まってもそうなのですから、一般市民との対話は更に難しいということを実感したと思います」(鷲田教授)
  また、全学教育の他に、モチベーションの高い学生を集めて集中的に指導を行う講座も開設する。大阪大で数年前から取り組んでいる「哲学カフェ」もその一つ。若者からお年寄りまで複数の一般市民に集まってもらい、市民同士で医療・介護や環境、セクシュアリティやニートなど、重要な社会問題をテーマに討論を行うものだ。学生は司会役に徹し、市民が自ら結論を導き出せるようコーディネートしていく。専門家と一般市民とをつなぐ「科学技術コミュニケーター」を養成することがそれらの狙いだ。
  「法人化後は、本学のような研究大学と言えども、『社会の中の大学』という意識を強く持たなくてはなりません。本学に限らず、他の大学院においても、今後益々教育面の充実が進むのではないでしょうか」
  大学院における全学共通教育に先鞭を付けた大阪大の取り組みが、全国に波及する日も遠くないかも知れない。


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