その強さの秘密は、各研究科の教育を支える全学的な教育支援の体制にある。大阪大では05年4月、全国に先駆けて大学院における「全学共通教育」を開始した。これまで研究重視だった旧帝大、しかも大学院において教育重視の姿勢を打ち出した先駆的事例であるわけだが、その背景を大阪大副学長(教育情報担当)の鷲田清一教授は次のように述べる。
「大学院重点化以後、修士課程の定員は大幅に増えました。しかし、博士課程まで進んで研究者になる学生はそのうちの半数以下で、多くは修士修了後、社会に出ていきます。大学院修了者にふさわしい知識や技術、教養を身に付けさせて、社会に送り出すことが益々重要になっているのです」
また、これまで先端科学の研究は、過度の技術競争に偏りすぎているという反省もあったようだ。「社会貢献」は大学の使命の一つであるが、教員の間に「社会貢献=産学連携」という考え方が根強く、いかに産学連携を通して資金を調達し、巨大なプロジェクトを動かしていくのかということに気を取られすぎていた面があったという。企業だけでなく多くの一般市民が社会を支えているという視点に立って、もう一度、社会貢献の観点からも大学院の教育を見直そうという意識があったのである。
「本学が育成を目指す人材像は『社会から厚い信頼を寄せられる研究者・技術者』。科学技術は人々の生活を高める一方、人的ミスによるさまざまな事故も引き起こします。これからの科学者には市民の期待やニーズだけではなく、不安に対してもきちんと耳を傾けつつ、研究を進めていく姿勢が強く求められているのです。だからこそ、先端研究を行う大学院生にこそ確かな『教養』が必要であると考えています」(鷲田教授)
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