大学改革の行方 教育の充実に動き出した大学院
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大学院教育に対する初の支援事業がスタート

 以上述べてきたところは、今回の答申が示した「大学院側への宿題」とも言えるものであるが、一方で行政側の支援体制も着実に進みつつある。
  最大の目玉と言えるのが、05年度にスタートした「『魅力ある大学院教育』イニシアティブ」事業だ。研究者養成に関する意欲的・独創的な教育を実施している大学院に重点支援を行い、「大学院教育の実質化」を進めると共に、その成果を広く情報発信することで大学院教育の改善に活用するのが狙いだ。04年8月に文部科学省が概算要求を行い、今回の答申の前の中間報告が出た05年6月の段階で、全国の大学院に公募要領を発出した。
  対象分野はすべての学問分野だが、公募の際は「人文社会系」「理工農系」「医療系」の3分野に区分し、各専攻単位での募集とした。147大学338件の応募があり、各審査部会における審査を経て97件が採択された。図5は初年度の採択状況を示したものだが、すべての分野で国立大の強さが際立っていることが分かる。特に「理工農系」は9割が国立大であった。

▼図5 クリックすると拡大します

図5

  ところで、本事業は大学院教育に的を絞った初めての支援事業であるが、中教審答申が出される前に実施に移された事業も、この取り組みが初めてであったという。こうした経緯に、同事業に対する文部科学省の意気込みがうかがえよう。
  「文部科学省の努力が実り、05年度は30億円の予算を獲得することができました。大学院は、採択され財政支援を受けて、それで終わりということではなく、他の大学院の教育改善に資するよう、活動内容を積極的に公表していくことが求められます。文部科学省でも、今後はホームページに各大学へのリンクを張ったり、定期的にフォーラムを開催して取り組み内容の伝播を図るための支援を行っていきたいと考えています」(山崎氏)
  また、今回の答申を受けて、文部科学省による「大学院教育振興プラットフォーム(仮称)」の策定の検討も進みつつある。これは、「修士課程及び博士課程前期の修了要件の見直し」「FDの実施」「奨学金の審査の早期化」など「大学院教育の実質化」等を進めるための体系的かつ集中的な取り組みを示すもので、平成18年度から平成22年度までの5年間での実施を予定しているという。答申で示されたイメージは図6の通りだが、中でも注目すべきは「ポスト21世紀COEプログラムの具体化」だろう。

図6 大学院教育振興プラットフォーム(仮称)イメージ
 今後の大学院教育の改革の方向性
  各大学院における教育の実質化、学位の国際的な通用性、信頼性の向上を図り、また世界的な教育研究拠点の形成等により、国際的に魅力ある大学院教育の構築を進める。具体的には、次に掲げる改革の方向性に沿った施策を実施する。

  ◆各課程ごとの人材養成機能(目的・役割)の明確化
  ◆大学院教育の実質化(教育の課程の組織的展開の強化)と円滑な学位授与
  ◆国際的な通用性、信頼性の向上(大学院教育の質の確保)
  ◆組織的基盤の充実と卓越した教育研究拠点の形成(世界規模での競争力の強化)
  ◆若手教員(研究者)等の教育研究環境の改善(キャリアパス等に対応した体系的な支援の実施)
 実施期間
   平成18年度から平成22年度までの5年間
※ただし、制度改正については、できるだけ早期の実現を目指す。
 具体的な取り組み施策
      ◎主として制度改正に関する事項 ○主として取組支援に関する事項

  (1)大学院教育の実質化
   (1)教育機能の抜本的充実 ◎課程の目的、単位の考え方の明確化 ◎修士課程及び博士課程(前期)の修了要件の見直し ◎FDの実施 ○優れた大学院教育の組織的展開・普及 ○各大学院における取り組み状況を広く情報提供
 

 (2)学生への経済的支援 ◎奨学金の審査の早期化 ○特別研究員、TA、RA等の資金制度の活用

 

 (3)若手教員(研究者)の教育研究環境の改善 ○キャリアパスに応じた体系的支援 ○世界水準の教育研究環境の実現 など

  (2)国際的な通用性、信頼性の向上
 

 (1)実効性ある大学院評価の取り組みを推進 ◎成績評価基準の明示と厳格な成績評価の実施 ○専門分野別自己点検・評価の促進 ○専門分野別第三者評価機関の形成・導入 ○専門分野別自己点検・評価結果の整理・公表

   (2)国際貢献・交流活動の活性化 ○各大学院の国際化戦略支援 など
  (3)産業界等と連携した人材養成機能の強化
   (1)産業界等社会のニーズと大学院教育のマッチング ○産学協同教育プログラムの開発・実施 ○実践的なインターンシップの実施
   (2)産業界等と大学等の人材の流動化 ◎博士課程短期在学コースの創設 ○大学院入学後の補完的な教育プログラム等の実施 など
  (4)国際競争力のある卓越した教育研究拠点の形成 ○21世紀COEプログラムの充実とポスト21世紀COEプログラムの具体化
出典:中教審答申「新時代の大学院―国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて―」

 「文部科学省では、06年夏の概算要求のときまでに、現在のCOEに代わる大学への重点支援の取り組みとして、『ポストCOE』を具体化していくつもりです。現在のCOEと同じような方法で研究拠点づくりを進めるのか、あるいは『魅力ある大学院教育イニシアティブ』における教育面の評価と同様の視点についても加味していくのか。また、新規公募にするのか、COEの事後評価に応じて継続支援する大学院とそうでない大学院を選別するのか。取り組み内容や選定方法など、検討すべき課題は多いですが、中教審等の意見も聞きながら検討していきたいと思っています」(山崎氏)
  「教育力の向上」に動き始めた日本の大学院。行政主導の事業も導入され、官民一体となった大学院教育の充実が進みつつある。次ページからは、「『魅力ある大学院教育』イニシアティブ」で最多の10専攻が採択された大阪大の事例を通して、「大学院教育の実質化」が進みつつある大学院現場の実相を見てみたい。


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