――現在、民間企業では、団塊の世代が退職期を迎える「07年問題」が大きな課題となっています。職業人として豊かな経験を持っている人たちが一気に組織から抜けてしまうことで、ノウハウが継承できなくなると懸念されています。
小島
高校の場合は、団塊の世代よりも40代から50代前半の層の方が厚いため、07年問題には直面しません。しかし民間企業から数年遅れて、大量採用期の教師がこぞって退職を迎える時期が確実に訪れます。高校も企業と同様、何らかの対策が求められると思うのですが、この点について先生はどのようにお考えですか。
小島 現在50代の先生方の中には管理職になっている方もいますが、多くは一般教員です。若手教師のモデルとなり、教科指導や進路指導の軸として現場で働いている方々です。こうした先生方が、数年後に大量に退職します。
大量退職は、人員補充のための新卒者の大量採用にも直結します。学校現場では豊富な指導ノウハウを持った先生方が引退する一方で、若い先生方を育てなくてはならないという課題に直面するわけです。しかもそのときに軸となるべき現在の中堅層の先生方は元々の採用数が少ないので、ミドルの空洞化が一層深刻化することも予想されます。
小・中学校では、校内研修を通じて若手教師を育てる取り組みに熱心ですが、高校ではまだそこまでいっていないのが現状ではないでしょうか。若手教師をうまく育てられず、ミドルが空洞化すれば、指導力低下が問題となります。
――小・中学校に比べると、高校は、教師個々の指導力に委ねてきた部分が大きいと言われてきました。例えば進路指導部には進路指導を熟知したベテランの先生方が数人いて、その先生方の“職人芸”によって生徒の進路実現を保障していた面もありました。しかし経験豊富な教師が現場から去ると、職人芸には頼れなくなります。
小島 そうですね。個人の力量に頼る従来のやり方には限界があります。そこで重要になるのは、組織として力を発揮できる体制の確立です。
私はミドルの役割が、従来とは変わってくると思います。これまで教師は、何といっても教育のスペシャリストとして自己の専門性を高めていくことが大切でした。教科指導も進路指導も、学校内に何人ものスペシャリストがいることによって成り立っていました。
もちろん自己の専門性を磨くことは今後も重要ですが、ミドルに関しては、それぞれの先生方が持っている能力を引き出し、その力を有機的に結び付けながら、組織としての指導力、更には組織としての「学校力」を高める役割を担うことも、これまで以上に求められてきます。中教審も教職大学院について議論した報告書の中で、教職大学院を創設する目的の一つとして、ミドルを念頭に置いた「教員組織・集団の中で、中核的・指導的な役割を果たすスクールリーダー」の養成を挙げています。
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