ロボットは、これから確実に社会に広がり、人を支える技術になっていきます。人型ロボットが人間の良きパートナーとなるのはまだ先のことだとしても、ロボット技術を応用し、人間社会に役立てるための研究開発は着々と進んでおり、具体的な展望が開けてきました。
既に「ロボット的」といわれる自動車や家電製品は登場しています。身近な機械が高性能のコンピュータを搭載し、機能が洗練されることで、ロボットに近づいてきているのです。また、家の壁に埋め込まれた室温管理システムや、町と一体になった防犯・監視システムなど、環境と一体化して一見それとは分からないロボット技術、インビジブルロボット(※6)も広まっています。
更に、人間の動きを解析・パターン化し、人間のように動くロボットを開発する研究が、逆に人間のことを深く知る研究にもつながっています。これはロボットの体や運動の研究のためにモーションキャプチャーを使って開発した人間の動きの分析法を、医療的な診断に利用するというものです。例えば、人間の神経疾患と筋肉の運動は大きく関わっていて、パーキンソン病や多発性硬化症などの疾患の進行は運動の変化として現れます。
そこで、人体の動きをコンピュータに取り込むモーションキャプチャーを応用して「あの筋肉が通常と異なる運動をしているから、この神経に変化が生じているのでは?」と客観的に計測するのです。これは我々の研究室で取り組んでいるテーマの一つでもあります。
自分が研究した技術が、実際に社会の役に立ったときの喜びは大きいものです。特に、手術用ロボットなど医療分野での貢献を目指す研究には、大きなやりがいを感じています。これは、基礎研究を深く突き詰めるときのやりがいとはまた違った喜びです。今、テクノロジーの最先端は「コンピュータの処理速度をいかに速くするか」というような要素技術を極めることだけではなく、「最先端の科学技術が社会や人間のために応用され、役立つものになる」、それを目に見える形に創り上げるシステム技術を極めることを目指していると実感しています。
「人間と機械、社会と技術」は、ロボティクスがずっと重視してきたテーマです。ロボットの制御や知能の研究は、人の生活する環境を便利で豊かにするために機械ができることを極めようとしています。だからこそ、科学技術の進歩の中で、人間を発想の中心に据えたロボット研究が重要な地位を占めると、私たちは考えています。(談)
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