真のリーダー育成を目指して 盛岡第一高校の考える人材育成



専門性と教養を合わせ持つ人をもっと育てよ

野依良治

▲独立行政法人理化学研究所理事長

野依良治

のよりりょうじ
1938年兵庫県生まれ。京都大工学部卒業後、同大大学院工学研究科修士課程を修了。68年に名古屋大助教授となり、72年に教授。文化勲章、日本学士院賞、ウルフ賞、ロジャー・アダムス賞など、国内外の数々の賞を受賞。2001年には「分子触媒による不斉合成の研究」によりノーベル化学賞に輝いた


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真のリーダー育成を目指して(3)

専門性と教養を合わせ持つ人をもっと育てよ

独立行政法人理化学研究所理事長
野依良治氏

科学研究のプロジェクトには、
さまざまな国の研究者が集まるケースも少なくない。
その中でリーダーシップを発揮するには、
どのような資質・能力が求められるのか。
2001年にノーベル化学賞に輝いた
野依良治氏にうかがった。

野依氏が考える
リーダーに求められる力
専門分野に秀でていると同時に全体を俯瞰(ふかん)して見ることができる「T字型」能力
情報を体系化し、知識や教養として、自分のものにする力

事実の発見ではなく重要なのは「価値の発見」

――科学の発展が、私たちの生活を大きく変えてきました。それを支えている研究者の原動力とは、どのようなものなのでしょうか。

  自分を取り巻いている自然環境を深く知ろうとする欲求は、すべての動物が持っているものです。どれを食べることができ、どれは食べられないのか。何が自分より強く、何が弱いのか……。動物が生き抜くために必要不可欠なことだからです。人間も同じです。科学研究は、それが深く精緻なだけで、動物としてのヒトの本能と言える知の営みなのです。
  人間、強欲なことを言っても、悠久の宇宙の歴史から見れば、人生は本当に一瞬です。宇宙の、地球の営みを知ることで、人間は謙虚になり、真っ当な自然観や人生観を持って生きていけるのではないでしょうか。そういう意味で、科学はそれ自身で非常に重要な役割を果たしています。
  同時に、基礎科学の知識を活用して、さまざまな科学技術が発展してきました。人間の存在はささやかなものですが、「人類の叡知」は誇りにできるものでしょう。

――自然の探究も、技術の開発も、その道のりにはいくつもの大きな壁があると思います。


  研究者には困難に耐えられる強靭な精神が必要です。また、壁を乗り越えるためには、知性だけではなく、感性も求められ
るでしょう。科学の研究は、「事実の発見」ではなく、「価値の発見」が重要だからです。
  日々、多くの科学研究が行われていますが、目的通りにいかないものばかりです。しかし、意にかなった結果が出なくても、新たな事実は日々発見されています。ところが、単に事実を見つけただけではだめで、それが持つ意義そして有用性、価値を見いだしていかねばなりません。
  実は、ノーベル化学賞を頂いた研究は、全く別の目的の研究をしていた最中に「発見」したものから始まりました。ある実験結果を目の前にして、「これは重要な原理になるのではないか」とふと思ったのです。まさに「価値の発見」でした。そして、新たな目標を設定し直して研究した結果、世界的にも評価していただける研究となったわけです。
  偶然に見える価値の発見は、しかし偶然では得ることができないと思います。そこには、価値を見つけるレセプター(受容体)が備わっていなければなりません。価値の発見は、自らの研鑽を通してつくられた頭の中のレセプターに引っかかる、つまり感じるということです。レセプターは言わばアンテナのようなもので、教養が豊かになることでレセプターの種類も増えていきます。レセプターが豊かであれば、平凡に見える個々の事象から価値を見いだしたり、複数の事象を関連付けて応用・発展させたりすることができるのです。レセプターがなければ、新事実が飛んできても滑ってどこかへ行って、せっかくの幸運の機会を失ってしまいます。つまり、基礎的な教養が身に付くほど、科学者としての能力もどんどん高まっていくと言えるのです。


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