――科学研究の中でも、プロジェクト研究のリーダーにはどのような役割が求められるのでしょうか。
研究が成果を見いだすまでには、さまざまな失敗や困難が立ちはだかります。計画研究においては、目標に向かって全員の力を結集しなければ、成功はあり得ません。プロジェクトのメンバーには、国も言葉も文化も違い、いろいろな背景を持った科学者たちが世界中から集まります。単に研究目的の達成が困難というだけでなく、協力すべき人々の価値観の齟齬や衝突といった難しさもあるのです。リーダーはこれらの問題を乗り越えるためにメンバーをまとめあげていくわけですが、人として信頼される存在でなければ、誰もその人にはついていかないでしょう。リーダーは何よりも、尊敬される人物であることが重要なのです。
科学者だから、数学や物理などの専門性だけ優れていれば尊敬されるのかと言えば、決してそうではありません。同時に教養も求められます。
例えば、日本人のリーダーの下、アメリカやヨーロッパの若い研究者が参加しているとします。彼らと話すためには、国の成り立ちや特質、ローマカトリックとプロテスタントの違いくらいは知らなければなりません。彼らにとって、それは心の拠り所だからです。相手のバックボーンである文化を知らなければ、話も弾みません。信頼も生まれない。教養は研究とは関係がないことと思うかも知れませんが、コミュニケーションができずに、どうして研究の困難を乗り越えられるでしょうか。専門性に秀でていながら幅広い教養も持っている、言わば「T字型」の能力がリーダーの条件なのです。
――先程のレセプターでも、教養の必要性がお話に出てきました。科学者としてもリーダーとしても求められる幅広い教養を身に付けるには、何が重要でしょうか。
今の日本には、スペシャリストとして「I字型」の優秀な人材は大勢いますが、ジェネラリストとしてチームを統率できる人は少ない。そう考えると、私は、学校で早期から文科系と理科系を分けるのは大きな問題だと思っています。幼いときから俯瞰的にものを見られる力を伸ばせるような環境にいなければ、リーダーは育ちません。本人の勉強不足という面ももちろんありますが、常日頃、自然に学べるように家庭や地域、学校が環境を整える必要があります。
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