森 自分のプラス面を評価されることで生徒が自分の可能性に気付けば、一人ひとりの目標設定も徐々に高いものになっていきます。そして、集団の中で高い目標を掲げる生徒が出てくると、それは波及効果となってほかの生徒にも広まっていきます。生徒に限らず、人は他人と比べながら自分の位置、目標を決めることがありますから。
――06年度入試で、金沢泉丘高校は東京大合格者数が前年度比3.3倍の20名に達しました。より高い目標を目指す生徒が増えた結果ともいえるのではないでしょうか。
森 一つ上の目標を示してもらえることは、生徒にとっても嬉しいものです。06年度入試では東京大合格者が増えましたので、その分、京都大合格者が減ったかというと、実はこちらも増加しています。学年全体としての目標が上へと移行した結果だと思います。
宮越 高みに引っ張り上げるのは教師からの働きかけだけではありません。本校では、定期テスト前に「質問教室」と呼ばれる部屋を設けたのですが、ここも、教師が教えるだけでなく、生徒同士で教え合う場になっていました。これも、野外劇と同様、生徒同士の自発的なかかわりができる場といえます。
菱田 人とのかかわりの中で努力し、自分を高める喜びをたくさん味わえるのが本校の強みだと思います。人間は、いくらお金や地位を得ることができたとしても、結局は人が認めてくれないと喜びを感じることはできないと思います。人とのかかわりの中で、人のために生きる。次代のリーダーを育てる上では、そういう体験こそが大切だと思うのです。
上田 大学入試を乗り切るためのテクニックを重視するなら、もっと別の方法があると思います。しかし、私たちは本当の学びの意欲と意義を生徒から引き出したいと思っています。そのためには、目先のことにとらわれず、その瞬間瞬間で、一番大切なことに取り組ませることが必要ではないでしょうか。
森 この春の卒業生が野外劇の準備に入る際に、3年の学年集会で私は「準備と勉強にメリハリをつけて」などと中途半端な言い方をせずに、「こんな大切な行事を目前にしているときに、勉強なんてやっている方がおかしいんだよ」とはっきりと断言しました。勉強を免罪符に中途半端な取り組みをさせたくないのです。今、大切なことがあるのならそれに熱中してほしい。教師が自信を持って背中を押してやることで、生徒は本物の体験に飛び込んで行くことができるのかもしれません。
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