特集 高校教育の「不易と流行」
VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
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「今のままでいい」が生徒の自己肯定感を高める土台となる

山口 自分の人生を自ら切り開いていけるようになるために、私が生徒に身につけさせたいと思っているのが、自己肯定感です。

 進学校の生徒の場合、中学校までずっと成績がクラスで上位でしたから、「成績が良い」ということが自己の存在価値になっている子が多い。しかし、自己評価の物差しが成績以外にないから、成績が落ちると自己肯定感が大きく揺らぎます。それが原因で不登校になる生徒もいます。

 そこで、私は生徒には機会があるごとに「今のままでいい」と話しています。良いところもあれば、弱いところもあるのが人間なんだと。

 保護者はよく子どもに対し「勉強しなさい」と言います。でも、「勉強しなさい」という言葉の裏には「今のままではダメだから」という意味が含まれています。これでは、生徒はますます自己を否定的に捉えてしまいます。「今のままでいい」というところから出発できれば、生徒はのびのびと自己の可能性に挑戦できるのです

 ただし、これは教師や保護者が相当覚悟を決めないとできないことです。私は保護者に対しては、「学校は役割上、生徒の尻を叩かなくてはならない面があります。でも家庭では、今のままの子どもを受け入れてやってください」と話しています。

 

高田 学業成績だけが物差しになると、上位にいる一部の生徒を除いて、ほとんどの生徒が挫折感を味わうことになるわけです。学校にも家庭にも居場所がなくなったら、生徒は精神的に追い詰められてしまいます。だからこそ、学校と保護者が連携して子どもを育てていく体制が、進路指導でも生活指導でも、学習指導においても、重要になってきます。

 

船戸 高学歴化が進んでいることもあり、保護者の教育への関心は、以前より確実に高まっています。しかし、少子化の影響からか、高校生になった子どもとどう接したらよいかわからない保護者が増えてきているように感じます。

 私が高崎高校に勤めていたとき、学校と保護者との連携を強化しました。例えば、進路指導であれば、学校で生徒に進路研究に取り組ませるだけではなく、家庭でも親が子どもに自らの職業観を語る場を設けてもらう。「学校と家庭が一枚岩にならないと、進路指導はできないんだ」ということを繰り返し話してきました。

 また、部活動の大切さも訴えました。高崎高校では以前は2年生で退部する生徒が多かったのですが、最近は3年生まで続ける生徒が増えました。その理由を彼らに聞くと、「仲間と最後まで喜びや苦しみを分かち合いたいから」と言います。部活動を通じて、少々の挫折でもへこたれない、人間的にも魅力のある生徒が育つということも、保護者会のたびに話していました。

 

山口 挫折を乗り越えられる子どもを育てるには、教師や保護者ら身近な大人が、自らの挫折体験を子どもに語るということも大切でしょう。今の子どもは失敗を必要以上に恐れていますが、世の中には挫折を一度もしたことのない人なんて存在しないわけですから……。大人の挫折体験談の中から「そうか、先生や親はこうやって失敗を乗り越えていったんだ」ということを学ぶ。そこから得られるものは大きいと思います。


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